IDLは企業のメディアコミュニケーションを支援してきたインフォバーンのデザイン部門です。これまでの多くの実践から、メディアをデザインリサーチの手段として使う「Design through Media(DtM)」というメソッドを編み出しました。メディアコミュニケーションの「プロセス」を重視し、インプットで得られる知見やスループットで交わるつながりをアセットとして価値化。事業開発をはじめとするイノベーティブな活動に役立てます。
昨今、企業のメディアコミュニケーションは、これまでのようにユーザーに伝え、共感を誘い、行動を促すという役割だけでは足らず、価値創造の段階から巻き込み、ともにつくっていくという発想の転換が起こっています。記事やイベント・セミナーを通じて認知され、理解を促すだけではなく、ブランドのメッセージや存在意義を一緒に体験し、考えるプロセスをメディアコミュニケーションで実践する。能動・受動といったかかわりから脱却し、より企業やブランドを自分事化するターゲットを増やすことが見込まれています。
オウンドメディアやソーシャルメディアなど企業のメディア活用は、ターゲットとのタッチポイントをつくり、記事や投稿によってコミュニケーションすることをベースとしています。こうしたメディア活用はこれまでどおり企業のブランド認知拡大、マーケティングに寄与しますが、アウトプットに基づくアテンションの獲得や評判形成は「メディア」をめぐる活動全体の一部に過ぎません。アウトプットを生み出すまでには複数のステップを重ねる必要があり、その過程で得られる実践知や関係性は「メディア」を企業活動に用いる理由として、アウトプット以上の価値となる可能性を持っています。
私たちは「DtM」という考えを、メディアの「プロセス」の価値を最大化し、新たなプロジェクトや関係性=コミュニティを生み出すデザインツールとして提示します。そこでは、企画・取材を通じて意識的にインプットを行い、それらを対話と解釈を行うスループットのステップから共創パートナー発掘/新規事業のタネに発展させるなど、事業への直接貢献の可能性を生み出す仕組みをメディアの活動にインストールします。
従来企業のメディア活用はアウトプットを用いたコミュニケーションを重視してきました。制作された記事やイベントの発信による興味喚起、認知獲得、理解促進や評判形成が主な価値とされ、評価の対象となっています。
一方でDtMで重視したいのは「プロセス」そのものの価値です。扱うテーマを決める探索から、どのようなコンテンツに仕立てるかの企画、さらには取材やレポートを通じた制作といった一連の流れは、これまで成果物のための準備であり、発信内容の質を向上させることが目的とされてきました。しかし、探索で集めた情報や知識、企画時に検討されたアイデアは、担当者のインプットとして積み重ねられたうえで、きちんと共有されることによって、多くの人が活用可能な情報、知識となります。あるいは、取材やイベントのために出会う人や事象との交流は、事前の打ち合わせをはじめ、成果物として可視化されない部分のほうが多いくらいですが、その過程で生まれたつながり・関係性も一過性のものとして終わらせずに継続することができれば、共創の可能性にもつながります。ましてやこうしたつながりは、メディアの取材という体でなければ出会えないケースが多いのも特徴です。
まずはメディアコミュニケーションで生み出す価値についてのマインドセットをリフレーミングすることが重要です。
メディアコミュニケーションのプロセスは、漫然と取り組むだけでは価値になりません。担当する個人に集積される情報や知識、一部の人だけが対話を深めて得る理解やつながりは、放っておけば属人化していく一方です。これらを開かれたものに、プロジェクト内外からアクセス可能な仕組み=アセットにしていくことで、はじめて組織的な価値が生まれます。
まず、探索や企画段階などメディアのアクティビティで得られた知見を、事業やプロジェクトのあらゆる場面で活用可能となるようデータベース化します。たとえば記事企画のために集めた情報、そこから生み出されながら直接記事化に至らなかったアイデアなどは、テーマにおける周辺理解を深めます。データベース管理に最適化されたnotionなどのツールを用いて整理することで、通常の企業活動では得られなかった情報にいつでもアクセス可能になり、イノベーションに必要な問いの礎や、イノベイティブなアイデア発想の土台となります。
取材対象やイベント登壇者、記事の読者までメディアで掲げるテーマやコンセプトに共感したつながりを継続し、コミュニティ化していきます。こうしたつながりはメディアの持つテーマに共感したつながりであり、メディアのトピックを刺激にしながら対話を繰り返し、興味関心のつながりから目的を持ったノードが生まれ、メディアを通じて新規のプロジェクトを立ち上げる可能性を生み出します。取材対象や登壇者であれば継続して会話をできるメッセンジャーグループの組成や、また読者からも記事やイベントへのフィードバックだけでなく、クローズドのオンラインチャットを実施するなど、その枠を広げるだけ多様なコミュニティとなっていくはずです。これらはメディアのコンテンツ更新と並走しながら増えたり入れ替わったりを繰り返し、異なる強みや背景を持ち、多角的な視点でイノベーションを創発するコミュニティとしてのベータ・ネットワークを実現します。
メディアのプロセスから生み出したナレッジ・ベースとベータ・ネットワークはそれぞれイノベーションの可能性を高める「情報=知の集積」「人・コミュニティ=関係性の集積」としての機能が期待されます。これらは、継続性を基本とするメディアならではの特徴とマッチしており、活動の継続によりインプットの蓄積とネットワークの拡大が期待できます。一方で膨大に増えていく情報やつながりは、いたずらに増やすだけではアクセシビリティを下げかねません。その点においても新陳代謝が起こり得るツールの選定や、データベース構築が重要になります。情報ごとの関連性をタグで整理できるようにしたり、小さなことですが、使いながら使い勝手のよい形にしていくことは仕組みの最適化のみならず、ユーザー側の思考も整理します。
またメディアは社会との接点であり、その探索や出会いを通じて、不確実性の高まる社会の価値観の変化や企業・サービスの在り方を学ぶことが可能です。記事やイベントを通じた発信で問いや考えを提示し、実践を通じた理念の形成を行えるのも、実践的なメディアならではの特徴です。プロセスを含んだ価値に対して自覚的で、アセット化する仕組みを持ったメディアは、社会の変化にも対応しうる、持続可能なイノベーションを支援する仕組みになると考えています。
ここまで述べてきたように、DtMはメディアコミュニケーションのプロセスをアセットとして価値化し、アウトプットを含めた共創的なコミュニケーションが生み出す可能性を高めるメソッドです。
プロジェクトを定義する段階からメディアのプロセスにおけるアクティビティごとに価値を定着させ、昇華させるためのデザインが必要です。IDLではデザイナーと編集者がタッグを組み、企業のメディアコミュニケーションの価値最大化を支援します。
本稿ではDtMを価値の置きどころのリフレームに始まり、メディアコミュニケーションの在り方として語ってきましたが、デザインリサーチプロジェクトの実践として解釈可能な考え方と言えます。
企画、取材と様々な探索機会で得られた情報を考えながら記事という形にして、またその反響を受けて再び考えを深める。「つくりながら考える」姿勢を重視するデザインリサーチの「つくる」対象としても「考える」機会としても、メディアのプロセスが活かせるのではないでしょうか。
より具体的なサービス内容については、下記よりダウンロードできるサービスペーパーをご参照ください。
https://idl.infobahn.co.jp/service-papers/design-through-media
執筆:Design Strategist 遠藤英之