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こんにちは、インフォバーン京都のサービスデザイナー・エスベンです。2016年秋にアムステルダムで開催されたThe Service Design Global Conference(※1)(以下、SDGC)に数少ない日本からの参加企業の一員として、デザインディレクター・辻村と参加してきました(https://www.infobahn.co.jp/ib_column/7104)。カンファレンスに参加する価値の一つとして上げられるのが、日頃出会えないようなユニークな人々と有意義なコネクションを築けること。今回はその1社、Zenit Design社(以下、Zenit)で代表を務めるJonas Svennberg氏とビジネスデベロバー・Mats Huss氏と、エージェンシーのサービスデザインのプラクティスについて話した内容をまとめました。
※1:The Service Design Global Conference(SDGC)
サービスデザイングローバルカンファレンス(Service Design Global Conference)はサービスデザインネットワークにより毎年開催されているサービスデザイン業界における最大の集まり。今年の開催は世界各地から約650名が参加するまでに成長し、サービスデザインのトレンドを発信する組織として不可欠なものとなっていることがうかがえる。
辻村:会社はいつ創業されたのですか? 現在、何人くらいの人が勤めていますか?
Jonas:1994年に4名の工業デザイナーで創業しました。現在のスタッフは37人。2年前から私がCEOとして、会社経営を担っています。
エスベン:Zenitがプロダクトデザインからサービスデザインにピボットしているのと同様に、私たちインフォバーンも、デザインの対象をメディアからサービスデザイン、顧客体験設計に広げているところです。そこでまず聞きたいのが、Zenitのデザインチームのクライアントとの関わり方の変化についてです。
Jonas:そうですね。ある意味で私たちインフォバーンとZenitはデザイン領域の広がりを体現していると思います。異なるのは、メディアやコンテンツの側に出自を持つのか、商品や他のデザイン領域に出自を持つのか、といった点でしょうか。
意識してサービスデザインを提供しはじめた当初、その概念について理解を得るのは容易ではありませんでした。「本当に売れるのか」「今のケイペビリティーで大丈夫なのか」といった声がありましたが、実は以前から、多くのプロジェクトで、プロダクトだけではなく、サービスのデザインもしていました。にもかかわらず、そう認識してなかったんです。
Jonas:今回のSDGCに出席して思ったのは、「今後、サービスデザインを提供していくうえで、どうすれば信頼を得続けられるのか」ということです。プロダクトデザインの経験と専門知識は山ほどありますし、その提供方法も理解しています。しかし、クライアントにサービスデザインをうまく提供できるのか。どのような工夫が必要か。そうした課題を解決していくために、インフォバーンのようにインダストリアルデザイナー以外でUXデザイナーやサービスデザイナーを採用したいと思っています。そうすれば事業を拡大していけるはずです。
Mats:2015年以降、ニューヨークで開催されたSDGCでは「誰がどのようなデザインをしているのか」という疑問が減少しており、とても良い傾向にあると感じています。
肩書きよりも、クライアントにとって有効なコラボレーションを実現することが重要です。そういう意味では、今年のサービスデザインアワードを受賞した会社の一つがデザインエージェンシーではなく、広告会社だったというところがポイントです。肩書きではなく、クライアントのために良いジャーニーをつくれることの重要性を示しています。
プロセスへの信頼を生み出すことと、良いコラボレーション体験を提供することがポイント。実際に、従来の工業デザインエージェンシーがデジタルエージェンシーと同じプロジェクトで競合する機会を何度も見てきました。
マーケットに刺激を与え、クライアントとの関係性もフラットになっていくからこそ、クライアントと自身が抱えている課題についてよりフランクな話し合いができるようになると思います。我々エージェンシー側がどのようなデザインを提供しているかというよりも、クライアントのビジネスモデルの弱点などを起点に話ができ、エージェンシーとしてどういった改善や開発を目指せばよいか、という提案ができます。
実は以前と比べて、一方的な話が減ってきています。あるクライアントと最近お会いしたのですが、我々のチームにCADの専門家がいることに大変感動しました。なぜなら、サービスデザインに関することしか話さないエージェンシーが多く、その話は抽象的すぎるところもあるようなのです。今回の件でいえば、チームにCADの専門家がいることによって、具体的なプロセスに信頼できるのだそうです。今後もこういったことを強みにしようと考えています。
Jonas:インフォバーンもメディアからサービスのデザインに事業を拡大することに伴って、同じような経験をしていると想像しています。
Mats:もう一つアムステルダムのSDGCで感じたのは、サービスについて話す際は、具体的な面を挙げることの重要性です。どうしても抽象的になりがちなので、理解されづらい。多くのデジタルエージェンシーはデジタルに嵌ってしまい、ユーザーにとって何が必要なのかということを忘れてしまいます。
ある業界ではアナログテックの復活が見られますね。写真だったり、レコードだったり。そういった傾向にデジタル化への抵抗を感じる時があります。サービスを考える際にデジタルは一つのオプションに過ぎません。まずはユーザーニーズを聞いて、そこから最適なソリューションを考えればいいと思います。
エスベン:サービスデザインという概念を知る以前から、実質、「サービスをデザインしてきていた」という点を少し深掘りしたいと思いますが、いつ、どうやって、ものだけではなく、サービスをデザインしていると気づいたのですか。
Jonas:最終的にビジネスイノベーションの話になりますね。
たとえば、ある乳製品機器を製造している会社が自社製品のプロトタイプをZenitに持ち込んできました。すでにクライアントから注文を受けていたにも関わらず、さらに改良して、市場に出そうと考えていたんです。そこで、我々は新しいシャーシとインターフェースを作成しました。しかし、最も大きなインパクトを与えたのはビジネスモデル自体の提案だったように思います。機械をつくって売るのではなく、サービス化してリースするモデルに変えることを勧めたのです。
エスベン:UberやAirbnbのような、よく聞かれる消費者向けの話でないのでとても新鮮です。特に日本市場が持つ特徴に関係があるのかもしれません。日本には比較的メーカーが多く、今後の競争に備えるためにサービス化を真剣に考えていますし。
Jonas:我々は既存のクライアントからビジネスモデルの変革やサービス化、現在提供しているサービスの追加価値などの相談依頼が多くなってきています。インフォバーンはどうですか? 従来のビジネスに加えて、クライアントからサービス自体の相談依頼をどれくらい受けていますか。それとも、新規案件が多いですか。
エスベン:クライアントにサービスデザインを提供することはまだ容易ではありません。まずは社内のデザインリテラシーを高めつつ、今までに実施してこなかった新しいプロジェクトに取り組めるようにしようと思っています。
辻村:すでにクライアントに新しい方法の提案は行っています。たとえば、従来のコンテンツの企画フェーズにエスノグラフィ調査(行動観察)を取り入れていくことで、ユーザーの理解とコンテンツの最適化を行い易くするなど、少しずつ実績を積んでいる状況です。
Mats:クライアントに「どういう課題を根本的に抱えているか」を聞いています。多くの場合は、新しいセグメントへのリーチ、既存セグメントとより深く関係を持ちたい、といったステークホルダーネットワークを広げることに対しての課題。そのような話になると、私たちが動けるスペースが広くなるし、とても面白くなります。
Jonas:さまざまな専門性や考え方の違いを越えて、会社のために最適なソリューションとは何かをクライアントとともに考える必要があります。だからこそ、すでにあるソリューションの見直しや、ブラッシュアップの依頼が多いですね。
Mats:今回(2016年)のSDGCでもよく話されていたエージェンシーが現在抱えている課題として、ビジネスパーソンの定量的な考え方と、デザインのバックグラウンドからの定性的なアプローチの融合が挙げられます。
Jonas:そのギャップを埋めるためには、定性的なリサーチ結果を可視化して、誰でも話せるようにしないといけないのです。理想は、クライアントが僕たちとプロジェクトを組んだ後、経営ミーティングの場で、「今回のデザインドリブンのプロジェクトアプローチによって、○○○のような具体的なインサイトを得て、○○○を応用して○○○という解決策を考えることができます」というような流れを説明できるようになることです。
Mats:ポイントは、プロセスを終える前の段階で、あらかじめ結果のイメージを与える必要があるいうことです。
Jonas:そう。そのためには、クライアントのニーズを把握していないと、どこに辿り着くべきかはなかなか言えません。そこが難しい点です。ユーザー理解をする時のように、ある意味クライアントをユーザーのように捉えて、彼らが求めているソリューションだけでなく、デザインプロセス自体も考える必要があります。
エージェンシーとして、クライアントが期待している点を把握して認めていくのです。
つまりは、「どうやって伝えるか」の問題ですね。プロセス自体を流動的に考え、プロジェクト全体はうまく進んでいることを伝える。リサーチ結果によってアイデアを変える必要が出てきたとき、経営ボードに次の会議で前回と違うものを見せることはなかなか難しいでしょうから。
私にとってのサービスデザインの目的は、一つのキラキラしているソリューションを納品することというよりも、クライアントの組織内のさまざまなチームをプロセスに巻き込むことです。それが多分一番大切だと思います。
辻村:今後はどういう人材を募集していますか。
Jonas:今後はさらに専門的なサービスデザインスキルを持った人を探していくつもりです。プロダクトデザインのスキルは会社として十分ありますから。インタラクションデザインチームも強化したいですね。現在は外部パートナーと連携していますが、徐々に内製化していきたい。
Mats:世界中からいろいろな人に集まってほしいですね。異文化の視点を持ち、世界各国ののクライアントとより円滑に仕事を進めてくれる人材が必要なので。
辻村:サービスデザイナーを募集する際には、どんなスキルを見ていますか?
Jonas:一つの領域の専門家は探していません。
Mats:あとは、共感できる人。つまり、文化の文脈に敏感であるということです。たとえばインタビューの時にちゃんと行間を読める人が必要だと思います。
エスベン:ありがとうございました。