顧客の目線に立って、製品・サービスを開発する。多くの企業が実践するこのアプローチでは、もう足りない!? そんな「これからのユーザーに選ばれる製品・サービスづくり」のヒントとなるセミナー「強度の高い仮説による『この世にまだない価値』のデザイン」が8月29日に行われました。今回はその模様をレポートします。
1人目のプレゼンターはINFOBAHN DESIGN LAB.(以下IDL)の井登友一。「価値と文脈のデザインによるイノベーション発想」というタイトルで課題提起を行いました。
経済システムの中心はモノからコト、コトからエクスペリエンス(経験)へ――。1980年代後半にジョセフ・パインとジェームス・ギルモアが提唱したこの考え方は、製品開発において今まさに多くの企業の課題となっているが、その先が必要ではないかと参加者に問いかけます。
さまざまな企業のデザインコンサルティングを行うなかで「ユーザーが欲するものを理解し、差し出すだけでは、製品・サービスが選ばれない状況が起こっている」と指摘。多くのモノやサービスが“申し分ない”、“十分困らない”品質や利用体験を提供できるようになりつつある豊かになった今とこれからの時代において、誰にでもわかるような簡単なクイズのように、快適さや簡単さ、便利さを追い求めデザインすることだけでは足りないと提言しました。
では、どのように良質なエクスペリエンス(経験)をデザインできるのか、そこには2つの要素があると続けました。
「1つ目は、まだ見えない、深掘りしないと出てこない価値。そして2つ目は、文脈。どういう文脈で製品・サービスを提供してあげるか。この2つを理解・解釈し、最適な状態で製品・サービス化することが企業に今求められています」
では、1つ目の見えない価値はどのように見つけられるのでしょうか。人が自分のニーズを言語化できるのは意識の中のたった5%。さらに、多くの人は目の前にあるものを「これはこういうものだ」と納得してしまいます。
井登は「愚直に調査し、見つけていくこと」に加えて、1つのヒントを提示しました。それが一般の人とは違う方法で製品・サービスを利用する“極端な人”、エクストリームユーザーの存在です。
一般の人は行っていないが、エクストリームユーザーがすでに行っている行動や感じている新たなニーズが、これからの製品開発の新しい種になり得るのではないか。それは、たとえば一昔前のスマートフォンのように、新しい製品や価値観が先進的な人に取り入れられ、一般に膾炙し、習慣となり、いずれ文化になっていく流れと同様と言います。この考え方によって、具体的にどんなアイデアが生まれるのか、「是非プロジェクトをご一緒しましょう!」と締めました。
続いて登壇したのは株式会社SEEDATA 代表取締役の宮井弘之さん。同社は「生活者起点から、5年先を読み解く」をテーマに、「トライブ」という、エクストリームユーザーも含めた先進的な生活者をターゲットとしたリサーチ事業やアクセラレーション支援事業を行っています。
宮井さんはイベントのテーマである「強い仮説」について、参加者へ投げかける形でプレゼンテーションを行いました。
「強い仮説」と言っても何を持って“強い”とするのか。それを検討することで、プロジェクトの見え方が変わると言います。さまざまな切り口がある中で、5つの視点で仮説の検証の切り口が提示されました。
「長い」:耐用年数の長い仮説。“短い”と、本格的に始める際、すでにブームが終わってしまっていることも考えられる
「親しい」:周りの人が親しみをもてる仮説。周りの人を巻き込めないものではなく、自分もそうあっていい、共感できる視点を持ったもの
「新しい」:弁別性のある仮説。今までに言われていることと分けることができるかがポイント
「柔らかい」:適用性のある仮設。1つのケースだけでなく、他のケースにも応用可能
「固い」:蓋然性の高い仮説。机上の空論ではなく、ターゲットに当てて、反応が得られているか
現在行っているプロジェクトの、仮説のチェックとしても利用できそうなポイント。多くの参加者がスライドを撮影する様子が見られました。