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人間中心、その先に何がある?ーService Design Global Conference 2018レポートー

作成者: IDL|Nov 4, 2018 3:00:00 PM

Service Design Network (SDN)が主催する年次カンファレンス「Service Design Global Conference2018」がアイルランドの首都ダブリンで開催されました。今年のテーマは“DESIGNING TO DELIVER”。サービスデザインが欧州を中心として“Normal”なデザイン行為として定着し始めてきている流れを受けて、ツールや方法論の検討から、人間中心でホリスティックに設計したデザインをいかに実践し社会実装していくかの議論へとシフトしていました。

今回のカンファレンスの内容を受け、デリバリーするサービスを対象として議論されるべき人間性への問いを、近年バズワードとなっているAIをはじめとしたコンピューティング技術のサービスへの内在化の視点から考えてみます。

Human Centered ?

昨年のカンファレンスでも“Agent Centered Design”という言葉が出てきたように、もはや世界的なブームとなっているAIと人間に関する議論がいくつもあったことが今回のカンファレンスの特徴でした。

これまではサービスをデザインする思考の中心には人間がいて、美しいサービスをデザインするためには、サービスの享受者となる私たちにとって最適な状態を志向することが暗黙の前提でもあったように思います。

HCI(Human Computer Interaction)の分野では人間とコンピューターの関係性に関して、すでに多くの議論が巻き起こっており、Speculative Designの分野でもその関係性に対して批評的な問題提起がなされています。デザインの周辺分野で日常的に議論されていることがサービスデザインの分野でも議論されるようになったことは当然のことでしょう。

提供するサービスのエコシステム内に存在する人間の思考やふるまいの理解と同等に、人間のエージェント(そもそも、コンピューターは人間のエージェントなのかということに対しても問いは成り立ちますがここではその議論は割愛します)となりうるコンピューターへの理解をしないことにはデザイン行為をスタートさせることができない、ましてや良いサービスをデリバリーすることはできないといえるくらいの大きな潮目の変化を感じました。ある種「人間だけ中心」ではない状況が議論となっていました。

Humanity in Organizations

人間の潜在能力とコンピューターとの関係性の延長線上にある議論として、Stefan Moritzは人間が有する特異性としてCreativity(創造性)・Critical Thinking(批評的思考)・Compassion (同情)に焦点を当て、コンピューターが獲得、または代替することが難しい潜在能力を我々人間は兼ね備えていることを提示しました。

この指摘はサービスデザインの本質に切り込む示唆的な内容です。サービスデザインが大切にするホリスティックなシステム思考を阻害する要因と人間性や人間の潜在性を阻む要因は重なってくるように思えました。

サービスデザイナーは美しいプロダクトやサービスをデザインし、デリバリーしようと試行錯誤しているはずです。その営為によってデザインされるサービスが美しいものと仮定されるのならば、人間性のある組織で働くデザイナーを含むステークホルダーの存在は必要条件となってくると言えるのではないでしょうか。Stefanは美しいサービスをデリバリーする為に不可欠な美しい組織、ワークプレイスのデザインをデリバリーする為のヒントを与えてくれました。Stefanが示した、組織において人間性をデザインしていくうえで、大切にしている現状からの4つのシフトは、私たちの日常生活、日常業務に於いてその有用性を直接的に語りかけてくる内容でもありました。以下がその挑戦への4つのシフトです。

From Silo to Coalition(縦割りから連携へ)

From Resource to Potential(労働力から潜在力へ)

From Jobs to Life(仕事から生活へ)

From Fixed to Fluid(硬直的から流動的へ)

いくつかの具体的に「シフトしないといけない」と思いつくことが思い浮かんだのではないでしょうか?

Creative Leadership

人間特有の潜在能力の一つであるCreativity、その特異性を活かせる組織、更にはその組織を作るリーダー。クリエイティブな組織をデザインするうえでの根元的な問いとしてリーダーシップ論に行きついた際に参考になったセッションがDesignit のサービスデザイナーでありデザインリサーチャーでもある Lina NilssonのCreative Leadeshipでした。

このセッションはエージェンシーサイドにいる私にとっても示唆的な内容でした。たとえば、サービスデザインを思考する際のジレンマとして感じている「エージェンシーとして最適なクライアント支援とは何か?」という問いがあります。本来美しいサービスをデザインする原動力はサービスをデザインする組織内部にあるべきもので、外部の人間であるエージェンシーは本質的にどのようなサポートをするべきなのか。

複数の組織、複数のカルチャーから生まれるサービスのデザインを支援した経験はアドバンテージになります。一方で、どうしても立ち入ることのできない組織固有の内部事情も存在します。そしてそういった内部事情こそがサービスデザイナーがまず乗り越えないといけないハードルであったりします。

このハードルを立ち入ることのできない対象として傍観するのか、それともこのような厄介な問題を超えて行くための示唆を提供するのか? Linaがセッションで語ったことは、後者を選択する際に提供しているリーダーシップのデザイン論でした。言い換えると、厄介な問題に対して、主体的に問いを立て、その解法を生み出すクリエイティブなデザイナーを育てる、”リーダーをデザインする術”を語っています。つまり、Creative Leadershipをサービスとして提供することもデザインエージェンシーが踏み込んでいけるスペースとして、可能性が存分にあるようです。

Humane Centered Design

AIはデザインに限らずどの領域においても考えなくてはならないNew Normalになり始めています。

この流れの中で、サービスデザイン x AIの場合にはHumane Centered Designという視点が大切になってくると考えています。「Humane」とは、“human”+“e”で「人情のある、人道的」といった意味ですが、改めて人間を対象にしたデザイン、更には人間の自律性をデザインするには人間の深層にある「人間味、人間らしさ」を知ることが必要だという考え方です。

人間の生活に自然な形でAIが入ってくる近い将来には、人間とコンピューターが上手く共存していくためにAIとのインタラクションにおいても人間味が存在していることは変わらず重要です。 さらに言えば、特定のエコシステム内では人間もAIもフラットな存在と考えるエージェント中心発想のもと、「人間味、人間らしさ」の理解、解釈、実装に時間やお金が費やされる傾向になるのではないかと想像できます。

Stefanによると、「人間は潜在する能力を100%利用しきっていない」ことが述べられていました。使われずに退化する能力もあれば、存在に気づいていない能力、うまく使えていない能力など、多くの消化不良が人間にはあるようです。人間固有の欠如した能力を補填したり、拡張したりする働きをコンピューターに担ってもらう一方で、コンピュータの特異性を理解したうえで人間が一歩下がるといった人間とコンピューターとの親和的関係性の提唱と実践こそが今回のカンファレンスの大きな流れから得た着想です。

コンピューターと人間とが溶け合うシステムの中でコンピューターと人間との親和的な振る舞いの延長線上に置くべき共通言語として、「人間性」を据えることが両者の親和性を補完し合い、美しいサービスをデリバリーすることにつながるのではないでしょうか?

デザインの言葉が広義に使用されるようになり久しくなりますが、裾野が広がったデザインの領域を万遍なくカバーできるサービスデザイナーには、まだまだ開花させると面白味の出てくるケイパビリティがあるようです。