幸せも生産性も生み出す、三角形の人間関係とは?|RESEARCH Conference2025アフターイベントレポート

リサーチの実践知を共有する場として今年も開催され、盛況のうちに幕を閉じた「RESEARCH Conference2025」。そのアフターイベントを昨年に引き続き、RESEARCH Conference事務局とインフォバーンの共催で実施しました。

今回行ったのは、異質なものを統合する考え方である「トリニティ・シンキング」をテーマとしたワークショップです。チームで対話をしながら三角形の人間関係について考えをめぐらせた当日の様子をレポートします。

 

幸せの秘訣は三角形の関係にあり

今回のワークショップは、IDL [INFOBAHN DESIGN LAB.] デザイナー 平岡が制作協力した株式会社日立製作所フェロー/株式会社ハピネスプラネット代表取締役CEO 矢野和男さんの書籍『トリニティ組織: 人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」』(草思社)をベースにしています。

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書籍には、幸せを感じる「良い人間関係」とは?という問いに対して一つの答えを出した研究について記載されています。多様な会社における従業員の働き方や生産性について、定量・定性の両方の側面から21年もの時間をかけて調査した結果、人間関係に三角形が多いほど個人も集団も幸せになりやすいということがわかりました。

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現代社会において孤立感が増しているのは、三者がそれぞれ別の用件のみでつながっている「V字」の人間関係が多いためとされています。それに対し、三角形の人間関係とは、三者が相互に関連しあう仲間関係を指します。

この三角形の関係のもととなる「トリニティ・シンキング」について理解を深め、使いこなせるようになることが今回のワークショップの目的です。

 

効率を追求し、分割を行う「V字」の関係

トリニティ・シンキングと対をなすのが、ビジネスを行う際の必須スキルともいえるロジカル・シンキングです。

ロジカル・シンキングの特性の一つに、物事を構造化して整理するという「分割」があります。「分割」の思考は合理性の面では最適な手段といえますが、頼りすぎると弊害が起きる、その問題意識を持ってほしいと平岡は語ります。

そして、縦割りで階層化された組織やタスク分割の思考法など、ロジカル・シンキングからV字の関係は生み出されます。

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ワークショップは、このV字の関係にまつわる現状を理解するところからはじまりました。最初のワークでは、身の回りに存在するV字の関係を書き出し、そのメリットとデメリットを整理。

マネージャーと各メンバーといった人間関係のみならず、営業部←企画部→開発部のような部署間の関係、スマホアプリの階層構造など、組織・システム・サービスのレイヤーに存在するさまざまなV字の関係が各チームで発見されました。

 

多様なものを取り入れる「三角形」の関係

今回注目する三角形の関係とは、用件だけでつながるV字の関係に対し、困ったときに仲間として助けてくれる関係を指します。三角形の関係が増えると、幸福度と生産性が高まります。

書籍『トリニティ組織』ではその理由についても触れられており、一つは「仲間がいる」という心理的安全性が生まれるため、もう一つは「三人寄れば文殊の知恵」という言葉にもある通り、三者の多様性と相互作用によって複雑な問題への対応力が生まれるためであるとされています。

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次のワークでは、最初のV字の関係と同様、身近にある三角形の関係を書き出し、そのメリットとデメリットを整理しました。

クライアント↔︎ディレクター↔︎デザイナーといった仕事の関係から自分↔︎母↔︎姉のようなプライベートの関係まで、こちらもさまざまな三角形の関係が発見されました。初対面ばかりの参加者のみなさんでしたが、実体験に基づく会話が次々に飛び出し、対話がとても盛り上がっていました。

また、ここまでで出したV字の関係・三角形の関係のメリット/デメリットを対比することで、あらためてそれぞれの特徴を捉えるワークも実施しました。

その結果、V字の関係には短期で結果が出る、効率的、画一的、上意下達といった特徴がある一方、三角形の関係には長期で結果が出る、非効率的、多様性、相互補完的といった特徴があるという、それぞれに一長一短があることが見えてきました。

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「トリニティ・シンキング」で三角形の関係を増やす

書籍では、あらゆる要素を分割して考えるロジカル・シンキングに対し、トリニティ・シンキングを「人と人、組織と組織、あるいは経済合理性と人間の幸せなど、あらゆる​​『異質な​ものを​統合して​捉える』思考と​行動」と定義しています。

ここで平岡が提案するのは、自らがV字の分割思考に囚われていることに気づき、トリニティ・シンキングを取り入れ、あえて外部の要因と統合して考えてみるということです。

ワークの最後には、トリニティ・シンキングの実践として、冒頭で書き出したV字の関係を外部の要因と統合したり、異質な第三者を介入させたりすることで三角形の関係に変化させるためのアイデアを考えるワークを実施しました。

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移住者←行政→空き家というV字の関係で、移住者と空き家がマッチングできない問題に取り組んだチームは、移住者の信頼を保証する地元住民を登場させることで三者をつなぐアイデアを発想(写真左)。

また、デザイナーである自分とクライアント、ユーザーのV字の関係に取り組んだチームは、クライアントにユーザーインタビューに同席してもらうというアイデアや、クライアントの部長とつながることでクライアントと自分との三角形を構築するというアイデアを発想しました(写真右)。

V字の関係に対してさまざまな人・ものとの統合が行われ、独自性のある三角形の関係が各チームで形成されました。

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ワークのまとめでは、トリニティ・シンキングはアイデア発想だけでなく、仮説形成など日々のリサーチ業務にも応用しうるという、さらなる可能性が示されました。

「トリニティ・シンキングとロジカル・シンキングを行ったり来たりすることで、目の前の事象・現象をより構造的に捉え、仮説形成と検証を重ねていくことが重要です」。平岡は、ワークショップをそう締めくくりました。


異質なものを統合するトリニティ・シンキングは、幸福度や生産性を高めるだけでなく、不確実な状況に対応する手段の一つにもなりえます。仕事や私生活において、三角形の関係や、三角形の関係をつくることができる余地を探してみるとともに、日常の思考にぜひトリニティ・シンキングを取り入れてみてください。

また、トリニティ・シンキングにさらなるご興味を持たれた方は、書籍もチェックしてみてください。

https://www.soshisha.com/book_wadai/books/2785.html

 

執筆・編集:Design Researcher 伊原 萌櫻
編集:Design Strategist 山下 佳澄
撮影:Design Strategist 山下 佳澄、Design Researcher 阿部 俊介、Design Researcher 林佑樹