クライアント組織の内側からイノベーションを生み出す、主客一体の「Design Department」を目指して

2023年春から、7年目のスタートを迎えたIDL。節目に合わせて、これからのIDLがどのような組織としてアイデンティティを確立し、どのような関わり方でクライアントへ価値を提供していくのか、ディスカッションの場を設けました。

この記事では、「デザイン」という営みがカバーする領域が拡がり続けるビジネスシーンの中で、今できていることも、まだできていないことも含め、組織が目標に向かう姿を記録に残しました。クライアントやパートナーの方々とIDLとの間に、新たな共感や連帯を生み出すことを願って、プロセスを発信していきます。

今回対話したIDLメンバー(トップ画像左から)
遠藤 英之(Design Strategist)木継則幸(Creative Fellow)辻村 和正(Design Director)野坂 洋(Design Strategist)

 

メディア企業の中で生まれたデザイン組織がアイデンティティを確立するには

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遠藤:ということで、今日はお時間作ってもらってありがとうございます。今回のディスカッションのテーマは「IDLの現在地とこれから」ということで、大きな話になりそうではあるんだけれども。とりあえずスタート地点にしたいのが、IDLのサイトリニューアルに伴って、トップページで新たに掲げるステートメントとして、この間Kazz(辻村)が「Design Department(デザインデパートメント)」という言葉を提案してくれたじゃない。まずはその言葉に対する認識合わせから入っていけたらと思ってます。

辻村:OKOK。まずこの表現を考えていた背景として、インフォバーンはデジタルコミュニケーションを得意とするIBX部門とIDLとでクライアントにいろんな側面で価値提供しているわけだけど、「部門としてのブランドももっと立てて、前面に出していこう」という空気感が強くあったんですね。

そのくらい自由度高く「とにかくブランドを際立たせる」という目標を達成しようとしたときに壁になるのが、IDLのアイデンティティの曖昧さなんですよね。インフォバーンという会社は元々紙の雑誌から始まっているから、お客さんからはやっぱり編集者、オウンドメディアを運営する組織として認知されることも多い。

その歴史の中でIDLがデザイン部門として誕生したわけだけども、自社株主への説明や組織図の中では「イノベーション部門」として位置付けられていたこともあるし、時と場面によって表現が揺れ続けていて。組織としての出自が複雑なのも手伝って、このアイデンティティ問題というのはなかなか簡単には決着つかないなと。

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辻村:そんな中で、どんな組織でありたいかという意識を揃えるために重要なのは、ブランド名がちゃんと「状態を表す名前」になっているかだと僕は思っていて。「Department」って言葉は、日本では百貨店という意味で根付いてるかもしれないけど、本来は大きな組織の中の一部分という意味じゃないですか。「インフォバーンの一部である」という現在の状態とも合致してるし、加えて、クライアントの中に入っていって、彼らのデザイン部門としてのDepartmentになりたい、そういうサービスを提供したいというwillともマッチするので、自分たちの営みを表現する言葉として適切だと思っているんですよね。

遠藤:この間のチーム定例でも「クライアントにとってのバーチャルデザイン部門になる」という表現が出てきてたけど、それを端的にまとめたのがDesign Departmentってステートメントってことだよね?

辻村:そうそう。別の言葉で言い換えると、よく「伴走支援」とか言うけど、それだとあまりにも汎用的で、IDLの個性を表しきれない気がして。

我々の実態とお客さんからの認知の乖離って、割と頻繁に起きてるような印象があるんですよね。ちょうど先日、もう何年も複数の部署から様々なプロジェクトでご一緒させてもらっているお客さんに、改めてクレデンさせてもらったら「IDLはビジュアルデザインがご専門だと思ってました」ってフィードバックをいただいて。

野坂:ご一緒させてもらってるプロジェクトは幅広いのに、それが先方の中で繋がっていないっていうのはすごくリアルだよね。一つのイメージとしてブランディングがされていない。

遠藤:点としての仕事でしか存在してないってことか。

辻村:チーム内でクレデンを統一できていないから、担当者のスキルがIDLのケイパビリティとして認知されてしまってる。

野坂:そういう担当者名指しの案件こそ、クレデンは必要だね。まさに今のケースみたいな「わかっているようでわかっていない」ってところをキャッチアップしないと。

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辻村:ひとつひとつの案件できちんと期待に応えるのは素晴らしいけれども、その上で面として、IDLが全体として提供できることを伝えていかないといけないんですよね。

遠藤:あとは、IDL以外の部署のお客さんに対しても、IDLがデザインを軸に色々提供していることをきちんと伝えられれば、そこからもチャンスは増えるよね。

辻村:インターナルブランディングのためにも、まずはアイデンティティの確立が必要。現状は三者三様の説明になってしまっていて、統一できていない。だからこそ、Design Departmentという共通言語で話せるようになるのが理想的だなと感じていて。

 

狭義のリサーチを超えた「デザインリサーチ集団」としてのアイデンティティ

野坂:共通言語でいうと、例えばリサーチって言葉はIDLの活動の中で非常に重要な軸だけれども、それすら曖昧になってしまっている現状がある。マーケティングリサーチやユーザーリサーチと混同されやすいし、「調べ物」とか「インタビュー」という狭義で捉えている人は本当に多いと思うよ。

遠藤:この間収録したPodcastで、ちょうどその話をしたところ。デザインリサーチって言葉はまだまだ市民権を得られてないよね。

アウトプットではなくプロセスから価値を生み出す、デザインリサーチの新規性とは - IDL/R Design Dialogue vol.17

木継:IDLメンバーでさえ、デザインリサーチのコンセプトを伝えたときに違和感を持っていたからね。

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遠藤:去年の夏にKazzが「デザインリサーチ集団としてのブランディングを進めたい」って発表したときですよね。あんまりピンときてない人も結構いた気がする(笑)。今と同じ、確固たるアイデンティティを押し出していきたいって文脈だったから、振り切ってて良いなと俺は思ったんだけど。やっぱりデザイナーとしてアウトプットの創出にモチベーションを感じるメンバーが多いから、リサーチって言葉が引っかかってたような印象。

木継:デザインを包含する概念としてデザインリサーチがあるんだが、そこの捉え方が足りずに矮小化されてしまっているのかもしれない。

野坂:自身の力不足も大いにあるけど「なかなか伝わらないな」と忸怩たる思いはありますね。リサーチというと「データでしょ?」って返ってくる。それだけじゃなくて、コンセプトにしろ、記事にしろ、ひとつ作る裏には膨大な情報があって、オーソリティとのコネクションもあって、アウトプットだけじゃなくてそのスループットにも大きな価値があるってことをわかってもらわないといけない。

木継:リサーチではなく、あくまでデザインリサーチだからね。実践と理論を複合的に繋げていくことに意味がある。

遠藤:そこをきちんと伝えていくためにも、我々がDesign Departmentであるというのを声高に名乗って、IDLとしてのデザインリサーチを定義、啓蒙していくのは面白そう。

野坂:矮小化された定義を超越していく流れは、リサーチに限った話ではないからね。webマーケからコミュニケーション全体の戦略を考えたり、情報システムから経営システムに影響を及ぼす領域を広げていくという、スコープの捉え直しはすでに起きている。これを改めてDesign Departmentに当てはめると、やっぱりデザインリサーチを組織にインプリしていくことに活路があるはずだから。

 

「ファーム」でも「スタジオ」でもなく「デパートメント」である意味

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遠藤:ここまでの話で、Design Departmentって言葉がIDLの実態にもwillにも合致している実感は得られたんだけど、実際に世の中に出してもちゃんと伝わるのかな? よく聞く言葉だと「デザインコンサル」とか「ファーム」あたりは一般的かと思うんだけど。

辻村:個人的には、ファームって言葉はちょっと左脳的な印象があるんですよね。賢すぎるというか。

野坂:なんかね、外部化されてる感じがあるのよ。コンサル然としてるというか。

辻村:主客一体になってないってことだよね。

野坂:一方のDepartmentは、組織に入ってる、埋め込まれてる。

木継:概念的というか、一般名詞的なので、意味付けがしやすいね。だからこそ、しっかりとスタンスを明確にする必要がある。

野坂:例えばさ、イケイケなクリエイティブ系のデザイン集団相手なら、オーダーしたら向こうで上手いことやってくれて、良い感じのアウトプットが出てくるじゃない。それもいいんだけど、我々がやりたいのはそれじゃないよね。そんなのしても、そのプロジェクトは良い感じに収まるだろうけど、御社にデザインの思想はインストールされないじゃないですか、っていう。

そういう意味で、半分外で、半分中のDepartmentというのは、アイデンティティが芽生えそうなニオイがしてるのよ。

遠藤:今まで言語化はされてなかったけど、そういうスタンスは既にカルチャーとして根付いている気がする。オリエンでよく「インフォバーンさんはどんな感じで進めてくれるんですか?」とか聞かれるんだけど「任されて丸投げしてもらうというよりは、お客さんと一緒に作っていきたいと思ってます」って返すことが多い。「主客一体」ってキーワードを使いながらDesign Departmentというステートメントを説明するのは、わかりやすいかもね。

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半分外、半分中を行き来する理由

辻村:主客一体という姿勢が重要だと改めて思ったのが、先日ご一緒したワークショップで、デザイン経営領域で注目を集める「Kyoto Creative Assemblage」の代表者、京都大学経営管理大学院の山内先生が「イノベーションは中から起こさないといけない」とおっしゃってたんですね。

現代でイノベーションを起こそうと考えた時に前提となるのは資本主義社会・経済なんだけれども、単純に資本主義の外側に別の世界を作ったとしても、それは単なる敵対関係で、イノベーションでも何でもない。本当のイノベーションに必要なのは「内破」なんだと。資本主義の外側ではなく、内側からオルタナティブを生み出さないといけない。

ただし、内破する対象に迎合しないために、ドゥルーズが言う逃走線のような、外に離れていく遠心力を持つことが重要で。こういう話を聞くとやっぱり、クリティカルなトラブルメイキングに内部化は不可欠だと改めて思いましたね。

それこそが、外部のデザイン組織の存在価値だと思うんです。企業の中の人が内破すると、自社を破壊することになってしまうから、非常にハードルが高い。だから企業の中ではどうしても、既存のサービスを改善するソリューション型の発想が強くなるけれど、外の組織は今ここに無いものを提案できる。それが企業の外側からデザインの本質だと僕は思っていて。

野坂:完全に外部で完結させると割り切ったスタンスのデザイン組織もあるよね。事業部門を巻き込むとか、そんなのちんたら待ってるから日本にはイノベーションが起きないんだっていう考え方。それはそれで戦略としてアリだと思うんだけど、俺はもったいないと思っちゃうのね。結局世界を変えるには大企業も動かさないとインパクトを出せないと思ってるから。

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野坂:そういう意味でも、NTTデータのTangityのみなさんとは、まさにDepartmentとしての関係性をつくれていると言えるかもしれない。

関連記事:SIer領域で急増するデザイン業務。手触り感あるアウトプットを導くために必要な「変な存在」とは

我々が業務を受託するってスタンスではなくて、あくまで「一緒にやりましょう」というスタンスで、リフレームや提案に取り組んでる。今Design Departmentの説明をしても違和感ないって言ってもらえる気がするな。

木継:そういうプロジェクトは増えてるよね。アウトプットをお渡しするだけでなくて、そのプロセスをうまく運用して、アウトプットの周辺に価値を循環させるような仕組みをデザインするケース。

辻村:そこを目指すとなると、企業が我々を内部化したいと思ってくれるだけの魅力をアピールする必要が出てくるんですよ。頼まれたことを遂行する以上の付加価値、例えばお客さんが持っていない新しいアプローチや、想像の上を行くビジョンを提示しないと、一緒にやっていきたいとは思ってもらえない。

野坂:うまくいったパターンだと、我々のプレゼン資料を活用して、自分たちのお客さんに提案してくれたクライアントさんがいて。例えば、無人店舗のサービスデザインのプロジェクトに対して、今まではテクニカルな要件定義をすぐに打ち返していたけど、「なぜ無人店舗が必要なのか?」というところまで引き戻してから、一緒に提案しようと相談してくれるようになった。

木継:それが一つの理想型だよね。我々のバリューやコミュニケーション、ケーパビリティが、クライアントを通して拡張してる。

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イノベーションを生み出す手段としての、クリエイティブなデザインリサーチ

遠藤:我々がDesign Department化する理想的なパターンのひとつが、今の例みたいに提案内容が変化するようなケースだけど、別のパターンでは、企業の中のデザインセンターにダイレクトに入っていくケースもある。その場合、提供価値は変わってくるよね?

辻村:そこで必要になってくるのが、デザインリサーチによるデザインの拡張だと思ってます。

企業の中のデザイナーは、デザインする対象がプロダクトからサービスに変わったとしても、アウトプットを作ることがアイデンティティになっているはずなんですね。一方で、IDLがデザインリサーチャーとしてコミットするのは、アウトプットではなくプロセスなんですよ。

野坂:この提供価値の変容は、クライアント組織の成長モデルで整理できるかも。デザインセンターが無い組織に対しては、我々がDesign Departmentとして、デザインアティテュードをインストールする。既にDesign Departmentを持っている組織に対しては、拡張モデルとしてデザインリサーチを提供すると。

木継:プロセスという概念には、科学的な分析や一般化、標準化、理論化などの関連が強いんだけれども、デザインリサーチにおける価値はむしろ真逆だよね。特殊性や多様性、創造性、クリエイティブジャンプといった、理論的でないものを排除するのではなく、デザインのユニークネスとして吸収する価値を理解してもらう必要がある。

辻村:まさに、その問いに答えを出しているのが、リサーチスルーデザインという方法論なんです。

関連Podcast:主観と客観が交差するリサーチ・スルー・デザイン:ゲスト 三好賢聖さん - IDL/R Design Dialogue vol.15 後編

ユーザーや社会といった外的要因に対するソリューションを考えるデザイン思考に対して、リサーチスルーデザインは、自分が何を望むかという主観的な実験プロセスなので、非常にオルタナティブ。

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木継:プロセスで生まれる価値は、無形である場合も多々あるから、アセスメントをいかに体験に埋め込むかも課題だね。

辻村:それがまさに難しいところ。特殊性を扱えるデザインのユニークネスが、アセスメントによって奪われてしまう可能性もあると危惧していて。

アセスメントってつまり、基準に対して人を当てはめることなので、デザインとある意味相反する概念なんです。勿論、デザインをビジネスとして扱う上では不可欠なので、無下にはできないんだけれども。

木継:多分、全く違うアセスメント制度を作る必要がある。個人のマインドチェンジも含めた、無形資産をどうやって評価するか。

野坂:変化やブレイクスルーがアセスメントになるんだろうね。プロセスの効率化によって、空いた隙間に何か新しい提案を差し込むとか。プロセス化によって再現性が高まって、別のメンバーの視点を取り入れることができるとか。定番化して破壊する、というサイクルができれば良いと思うよ。

ナレッジマネジメントのSECIモデルだよね。形式化して、内面化して、外に出して、壊して、もう一度新たに内面化する。

遠藤:今日のディスカッションを発信するのもまさに同じ発想。ここまで扱ってきたテーマはすべて、簡単にまとまるものではないけれど、言語化して、発信して、返ってくる反応をまた内部化するプロセスに意味があるはずだからね。少しずつ形をつくっていきましょう!

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