見えないものをカタチにするデザインワークショップ〜 “Visible & Invisible Structures” Design Workshop参加レポート〜
みなさまこんにちは、インフォバーンKYOTOの可兒です。
2015年5月27日から31日まで行われました京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab主催のワークショップに参加してきました。
ワークショップリーダーに英国王立芸術院(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)のスズキユウリ氏、京都工芸繊維大学KYOTO Design Labのジュリア・カセム教授を迎え、5日間行われました。
ススギユウリ氏のワークショップ告知ポスター@KYOTO Design Lab
ワークショップのテーマとして、京都の街路パターンである格子構造を元に、サウンドデザイン、エスノグラフィックに基づいた視覚的ストーリーテリングの手法を用い、“見えない格子・構造”を体現する作品を、デジタルプラットフォーム「OTOTO」を用いたプロトタイピングに挑むというものでした。参加者は、社会人、学生含め25名。それぞれ5名ずつの5チームに分かれ、インフォバーンKYOTOからは可兒、UX designer の辻村2名で参加。両名+京都工芸繊維大学の大学院生3名というチーム編成で参加しました。
Day1:ブリーフィング/フィールドワーク(Launch,Sound Mapping)
初日、午前中はワークショップの流れやススギユウリ氏によるワークショップテーマについての説明など、ブリーフィングが中心に行われました。
Workshop Guide Book Workshop Guide Book
そして、お昼を挟んで京都市内北部にある北大路駅に移動。視覚障害をもつアーティスト光島貴之氏による、サウンドマッピングのデモンストレーションが行われ、視覚障害をもつ人が普段の何気ない環境音をどういった風に捉え、どう感じているかをレクチャーいただきました。視覚情報がないため、音の指向性、定位、圧迫感(音響特定でいう音の反射率)の情報を敏感に感じられているのがとても印象的でした。
光島 貴之氏によるサウンドマッピング@京都市営地下鉄 北大路駅
その後、各チームに分かれ、京都市内の主要な基盤構造となっているエリアをチョイスし、サウンドマッピング、ビジュアル・サウンドドキュメンテーションを行うため、現地へ移動。
我々のチームは、商業、住宅、歴史、自然要素がひとつに凝縮されているエリアを選び、観光名所である二条城近辺の周りを中心に4時間ほどサウンドマッピングとビジュアル・サウンドドキュメンテーションを行い、印象に残った場所や気になった点をチームメンバーと話し合い、その日は現地解散。
Day2:ブレインストーミング(Focus of direction)
2日目。この日より早速アウトプットする作品の方向性、コンセプトメイキング、プロトタイピングを行っていきます。
その前にKYOTO Design Lab内の工房や工作機械(レザーカッター、3Dプリンター、OTOTOなど)の使い方をオリエンテーションいただきました。
Digital Fablication Room@ KYOTO Design Lab
DIYシンセサイザーボード「OTOTO」
まず初日のフィールドワークを元に、メンバー個々にキーワードの抽出、それらをグルーピングすることでデザインの方向性を固めていきました。
ブレインストーミング
議論を通じて得られた気付きは、
- 各通りによる音の違い
- 場所性
- 交差点
- 人工音と自然音の混在
- 音の方向性
- 音要素の密度の違い
- 移動手段の混在(徒歩、自転車、車)
- 外国語の会話
といったさまざまな音の要素がレイヤー構造的に重なり合い、ある1つの環境音、空間、場所を形成しているということでした。
そこで世界有数の観光都市である“京都”から観光案内板をインターフェイスのメタファーとして、3つの役割と方向性を考えました。
- 格子構造と音楽的要素への再構築-FUNCTION
→交差点、音の方向性、音の構成要素の違い - 音の場所性と空気感、パーソナライズ-CONTEXT
→各通り、場所による音の違い、場所性、空気感 - 観光案内板-INTERFACE
図にあるように3つの役割が重なる部分を今回のプロトタイピングでアプローチすることで決定し、1日の最後にスズキユウリ氏、ジュリア・カセム教授へプレゼンテーション、フィードバックをもらいこの日は終了。
Day3:コンセプト開発、デザイン作業、プロトタイピング(Concept iteration and design)
3日目。前日の講評でジュリア氏より可視化という意味でビジュアル面での印象・イメージが弱いというフィードバックをもらっていたので、そこをどういった形でクリアにするかを議論しつつ、コンセプト開発を開始。 アイデア発想に行き詰まりつつも、コンセプトとアウトプットのイメージを固めていきました。
まず3の観光案内板を体験者との接点とし、案内板上のそれぞれの場所に、その場所の特長を表す“音”をマッピング。案内板をタッチするという行為をトリガーに音楽的要素へと再構築し、“見える”格子構造から新たな異なる構造(音楽的構造)の再発見、再定義を主軸のコンセプトに置き、発音される音の場所性や形成された音楽的要素は、その体験者自身をパーソナライズするような作品を作ることでメンバー全員と意見が一致し、コンセプトと最終のアウトプットのイメージも決定。実際のプロトタイピングに入っていきました。
作品名は“INSTRUMENT OF KYOTO”
まず残り3日間という限られた時間 の中で、どこまで最終的なアウトプットに落とし込めるかをチームで考え、全体設計、デザイン設計を行い、
- PC2台(サウンド用・ビジュアル用)
- OTOTO2台(インターフェイスとソフトウェアの連携)
- スピーカー2本
- モニター
- 筐体(インターフェイス含む)
といったシステム構成に決定。
そこでわたしはサウンドシステム開発、弊社辻村はビジュアルシステム開発、学生の3人は幸いなことにプロダクトデザインを専攻しているということもあり、作品の筐体づくり、インターフェイスの制作という役割をそれぞれ分担し、この日も1日の終わりにプレゼンテーション、フィードバックをもらい終了。
OTOTOを使ったビジュアルシステムの開発
レーザーカッター@ Digital Fablication Room
Day4:コンセプト開発、デザイン作業、プロトタイピング(Making)
4日目。コンセプト、全体設計が決まり、実際の作品のアウトプットをイメージしながら、実装上の問題点、懸念点をメンバーとコミュニケーションしながらクイックに潰しつつ、プロトタイピングしていきます。
簡易インターフェイスでのフィージビリティチェック
サウンド側とビジュアル側のシステムとインターフェイスのつなぎこみの検証を行うため簡易インターフェイスを作りながらフィージビリティチェックするなど、プロトタイピングならではのスピード感が求められ、刺激的な時間を過ごすことができました。
筐体制作@Wood Working Room
この日も終わりに途中経過のプレゼンテーションを行い、終了。インターフェイスの工作が終わり、サウンド、ビジュアルのシステムの組み込み・検証を予定していたが、そこまで至らず。不安因子を残しつつ最終日に持ち越しとなってしまった。
Day5:デザイン作業、プロトタイピング、最終プレゼンテーション(Final)
最終日。この日は、14:30に作品説明資料などの提出物のデットライン、16:00から最終プレゼンテーションというタイトなスケジュールの中、進行。
しかし、その日は日曜日ということもあり、私が野暮用のため午後からしか参加できない悪条件でしたが、前日の夜に同チームの学生3名が頑張ってくれたおかげで、インターフェイス、筐体部分と提出資料が午前中にはほぼ完成。また辻村もビジュアル側のシステムのプログラミングを夜な夜な組み上げてくれたお陰で、ほぼ各オブジェクトの仕組みは完成していました。
ビジュアルシステムの完成
最後にそれぞれのシステム、筐体、インターフェイス等々を最終プレゼン会場に運び、組み立て、最終チェックを行い、完成!
“INSTRUMENT OF KYOTO”プロトタイプ完成
時計を見ると、なんと14時前! 必須提出物のチーム写真の撮影を行い、作品・説明資料を提出。無事に時間内に終了することができました。
各チームの最終プレゼンテーション
その後の最終プレゼンテーションも無事に終え、スズキユウリ氏、ジュリア・カセム教授から大変好評を得ることができ、このワークショップでの期待に応えられたのではないかと思います。
また、その他4チームの作品も興味深いアウトプットが披露され、刺激的な5日間を終えることができました。
最後に
ワークショップテーマが非常に難解で全チームかなりの苦戦を強いられていましたが、私自身、最近もっぱら制作現場から離れていたので、“クリエイティブ”脳が刺激を受け、かなり有意義な時間が過ごせました。
この5日間という限られた時間内で、アイデアから最終の作品のアウトプットまで一気にプロトタイピングしていく手法は、迷う時間もなく、その場でtry and errorを繰り返し、アイデアが新鮮な状態で形にしていくことは、改めて重要なことだと感じました。
やっぱり“ものを作る”ってすばらしいですね! またこういった機会があれば、参加したいと思います。