サービスデザインの国際会議“Service Design Global Conference2015”参加レポート(2/2)
こんにちはインフォバーンKYOTOの辻村です。
昨日に引き続き、10月2日・3日にニューヨークで行われたService Design Global Conference 2015の様子をレポートします。
>>前編「サービスデザインの国際会議“Service Design Global Conference2015”参加レポート(1/2)」はこちら
ビジネスにおける成長戦略とデザイン
サービスデザインが、「共創に基づき長期的に持続可能なシステムを考えること」であるとしたら、これをビジネスに置き換えると、サービスデザイナーはビジネスアドミニストレーターと近しい関係性を築けることになります。
Billy Seabrookが、ジョン・マエダの言葉である‟Design > De$ign”を引用していたように、ビジネスにおける“Design”の重要性はますます顕著になっています。近年著名なデザインファームが、マッキンゼーやキャピタルワンの傘下に入ったこともその好例でしょう。
また、奇しくもその直後に行われたDanish Design CenterのChristian Basonも“Design for systemic change: towards a design society”と題したセッションで、“Designing”と“Managing”を対比させながら、旧来のデザインから組織や社会の成長戦略としてのデザインの重要性を説いていました。
併せて、現在のデザイン界を「diffusion」「consolidation」「expansion」「splintering」という4つのキーワードで語り、デザインとビジネスや社会における成長戦略との親和性が強まっていると主張していました。
私なりにこれを解釈すると、「デザインが一般領域まで拡散(diffustion)し、その重要性が増すと、デザインを体系立てて集約する(consolidation)動きが発生します。集約されることで、一層成長、拡大(expansion)し、従来一般的とされた領域以外(splintering)にもその矛先を意図的に向けられるようになる」状況だと考えました。
また、Basonはデザイナーのクリエイティブな思考を“design is future making rather than solution making”と称していたことも非常に印象的でした。
公共事業との親和性
サービスデザインは長期的な視点に立ったホリスティックな思考を有するものなので、ビジネス分野だけでなく、むしろ公共のサービスは最適な分野だと思います。
2日目のキーノートで登壇したカーネギーメロン大学のCameron Tonkinwise & Terry Irwinが提言した“Transition Design”は、現代社会の問題解決のアプローチとして注目に値する概念だと思います。また、デザインが進むべき方向を示唆したという意味でも本カンファレンスで最も意義深い言葉といえます。
“Transition Design”は、カーネギーメロン大学デザインスクールでのカリキュラム刷新に伴い 提唱された主要な学問対象。「変化の激しい“過渡期”である現代社会を、より持続可能なものにするために、デザインが政治、社会、経済において重要な役割を担っていく」との認識に基づいています。そして、私たちの”Quality of Life”を向上する為、「コト」のデザインから社会システムに根付く「ライフスタイル」のデザインを提唱しています。
この意味でも永続性を求められるパブリックセクターの事業領域はもちろんのこと、昨年の主要テーマでもあったHealth Care、Finance事業ともサービスデザインの親和性は非常に高いものであることを感じました。
テクノロジー社会におけるサービスデザイン
2日目の最後のスピーチでも取り上げられていましたが、急成長するテクノロジー分野とビックデータの取り扱いに関する取り組みはまだ少ないようです。そのなか、“Internet of BIG Things”を提唱するGE社が紹介した、産業分野における“Industrial Internet”。産業革命に匹敵するほどのインパクトと経済的波及効果をインフラ産業、エネルギー産業、運輸産業に残すようです。
一方で、その取り扱うデータ量の膨大さゆえに困難を極めているとの事例も。「今日存在するデータの9割は過去2年間で蓄積されたもの」という状況で、セキュリテー管理など、新ジャンルにおける業務遂行方法まで課題は山積のようです。
また、より身近なレベルでのIoT(Internet of Things)への取り組みでは、Fjord社のOlof Schybergson & Claudia Gorelickが提唱していた“Living Service”という概念が印象的でした。
「“Living”とは欲しい情報を、常に最新の状態で身近な環境から手に入れられる状態であり、その結果、概念上、公私の差や嗜好性の壁などを取り払った『わたしたち』の家、教育、仕事、交通機関などができあがる」
個の活動の集積情報から最適な社会を共創していくイノベーションの未来(Innovation2.0)が語られていました。
まとめ
本カンファレンスでは「ステークホルダーを巻き込んだユーザー理解に基づく共創の重要性」を再認識しつつ、このアプローチが、各分野および各事業において新しい視座を与えるうえで、本質的に不可欠な要素になり得ることを確信できました。
「変化のスピードが今より遅くなることは決してない(“The pace of change will never again be as slow as it is today.”)」(Fjord社のセッション)
このような社会におけるユーザーとのタッチポイントを考えるうえで、タッチポイント自体を静的なものでなく、よりダイナミックでリキッドな状態なものとして想定しておく必要性を認識できました。
これについては、ツールを改善しつつ成長戦略を描く即時性に加えて、本質的にはユーザーの理解とユーザー自身が因子となってアップデートされる共創社会について考え、理解する姿勢が必要です。この意味でもサービスデザイン的思考や方法が貢献できる余白は多分にあると、あらためて思いました。
私にとって、今回は初めての海外カンファレンスへの出席ということもあり、先に挙げたように議論の内容はもちろんのこと、セッションの合間に知り合った方々との会話やレセプションの際のネットワーキングも含め大変刺激的な期間となりました。
何より「他者」と議論したり、気軽に会話したりすることがデザイナーとしてスタンダードにならなければと感じ入ることもできました。そして、海外カンファレンスに出席することはその現実を知るうえで大変有益であり、かつ最速の機会でした。
>>前編「サービスデザインの国際会議“Service Design Global Conference2015”参加レポート(1/2)」はこちら