Service Design Japan Conference 2016 レポート 〜サービスデザインの現在地とこれから〜

こんにちは、インフォバーンでUXチームに所属している服部です。

さる1月23日に神奈川県横浜市にある慶應義塾大学・日吉キャンパスで「Service Design Japan Conference 2016」が開催されました。今、注目を浴びる「サービスデザイン」領域において日本最大規模のこのカンファレンスは、これで3度目の開催。年々、規模を拡大する中、今年は「日本でのサービスデザインの進化 - Evolution of Service Design in Japan」をテーマに、海外からのゲストスピーカーを数多く迎え、国内外の最新事例・動向が学べる非常に有意義なイベントとなりました。 今回は同イベントから2つのトピックをピックアップ。印象的なコメントと合わせて、サービスデザインの現状と今後について考えていこうと思います。

サービスデザインと組織

今回のカンファレンスでは「組織」というキーワードが、多くの場面で登場しました。サービスデザインを「どうやって組織に組み込むか」「どう浸透させていくか」。そんな取り組みを内外の登壇者が語ってくれました。

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米国を代表するサービスデザインのエージェンシー・Adaptive Path でデザインディレクターを務めるジェイミン・ヘイマンは、デザイナー(※ここでは広義のサービスを設計するデザイナーを指します)と、そうでない組織・部署の人間は「もはや一緒にならないで働くことはできない」と発言。その上で役割分担とプロジェクトにおける関わり方を規定する重要性と「『我々』と『あなた』のような関係性にならないようにする」(ジェイミン氏)とコミュニケーションの重要性を指摘します。 こういった問題意識は日本でも同様です。大日本印刷でサービスデザイン・ラボ室長を務める山口博志さんは「プロダクトやサービスは出てからマネタイズするまでに時間がかかるが、時間をどうやってもらうか。違うステークホルダーが、それぞれ文脈の違う形で評価をするが、それをすり合わせるのが難しい」と課題を挙げます。

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日本アイ・ビー・エムでインタラクティブ・エクスペリエンス事業部を率いる工藤晶さんは、自社の取り組み「IBM Design Camp」の内容を披露。VPクラスまでが参加する教育プログラムでは、一つの場所に多様なポジションのスタッフが集い「IBM Design Thinking」と呼ばれる自社の「共通言語」を根付かせるため、ワークショップなどを開催しているそうです。

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現在、すでに約10,000人が受講済みですが「全体から見ればまだまだ。多種多様な人間がいて、言葉が違うし、必ずしも同じ内容を言ってないことがある」(工藤氏)と、道半ばであることを強調します。それでも「IBMには(クライアントから)課題を提示されると、その解決に向かって一つになるという文化がある。その時に共通言語があると、手探りでも少しずつすり合わせていくことができる」(工藤氏)と手ごたえも口にします。 このように考えると組織への定着は、洋の東西を問わず課題になっているのは変わりません。また、その解決方法として地道な努力を口にするのも共通の傾向。こういった取り組みが一朝一夕では成果に結びつかないことを感じさせます。

サービスデザインとビジネス

ビジネスにおいて、どういったインパクトを与えるか。サービスデザインが注目を集める理由の一つが、新たなイノベーションをもたらすことにありますが、いくつかのセッションでは成功事例が紹介されました。 GEでエネルギー分野におけるSenior UX Researcherの職を担うカトリーヌ・ラウ氏は、自社のIoTに関する取り組みで共創的手法が成果をあげている事例を紹介しました。 ガジェットではなく、風車や石油の掘削装置といった大きなモノのインターネットを手がけるGEでは、そういった産業向けのソリューション提供によって2020年までに実に20兆円もの経済効果を出していくことを計画している様子。実際にガスタービンなど成果をあげている部門も多いですが、その秘訣として彼女は「多様なステークホルダーを集めて、画期的な解決手段を生み出す」という共創的な手法を挙げます。

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写真左から、カトリーヌ・ラウ氏(GE社)、Alisan Atvur(Novo Nordic)、大宮英紀(リクルートライフスタイル社) 写真左から、カトリーヌ・ラウ氏(GE社)、Alisan Atvur氏(Novo Nordic)、大宮英紀 氏(リクルートライフスタイル社)

Airレジでは実際にサービス開始にあたって現場での調査を実施。バイトとして店舗運営に携わるなかで「ああ、スタッフは早く帰りたいんだ」など、利用者のインサイトに迫る体験を積み重ね、サービスへと反映していきました。 そういったコアになる声を拾いつつ「コアな価値を提供しつつ、他社のサービスも取り入れてユーザーに最高の環境を提供することを考えていた」(大宮氏)と、大きなビジョンを描くことも忘れません。海外からのスピーカーも「大きなエコシステムを描き、そこで種をまいていく」(ジェイミン氏)「デザインを価値や収益の話に結びつけてか考えないといけない。あくまでも全体の話として」(ラウ氏)と賛同の声があがりました。 サービスデザインはわかりやすい「形」として、経営者などに示されるものばかりではありません。それでも「収益と結びつけて説明すること」「大枠のビジネスの中でしっかりと機能すること」が大事になります。実際に「考え方が古いことが多い」(ラウ氏)という産業向けインターネットの業界でGEが成果を上げ、プロジェクトを推進しているのが良い例でしょう。

まとめ

会場から「日本はサービスデザインの領域で後れを取っているが、どうすれば良いか」という質問に「そんなことはないと思う」と複数のスピーカーが答えました。細やかな配慮やサービスの徹底など、日本に古くからある美徳は海外の、そして国内のサービスデザインの実践者にとって「強み」と考えられているようです。 サービスデザインはプロジェクトや事業、そして企業など、大枠の中での最適化を指向することが多くなります。しかし、実践するにあたってはそういった大きな絵を描くと同時に、一歩一歩の積み重ねが大事になります。さまざまな手法やスキームについて学ぶと同時に、そんな当たり前のことに気付かされたのも、このイベントの収穫となりました。