SXSW2016 インタラクティブ・VR/ARトラック視察レポート ーイマーシブ・コンテンツの勃興を目撃!
インフォバーンCVOの小林です。米国オースチンで開催された「サウス・バイ・サウスウエスト2016(SXSW2016)」(2016年3月11日〜20日)を視察してきました。
弊社では4年前にブースを出展し、その後も社員を派遣しています。今回は、本年より新設された「VR/AR」トラックを中心にお話したいと思います。
「VR/AR」トラックはご存知のように、オキュラスリフトやサムスン・ギアVR、あるいはVIVEのような360度全視野没入型HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の登場により、近年もっとも脚光を浴びつつある分野です。現在、さまざまなコンテンツや関連ハードウェアが続々登場しています。
すでにYouTubeでは360度動画ファイルのアップロードと閲覧が可能になっており、それをスマホなどで閲覧するための安価な段ボール製ゴーグルも登場。ニューヨーク・タイムズでは、VR広告動画も制作し、そのゴーグルを読者に配布しています。
今回、SXSW2016でも、サムスン、IBM、NASA、ジレットなどが全面的にVRをフィーチャーした体験型イベントを行っており、まさにイマーシブ・コンテンツの見本市となっていました。イマーシブ・コンテンツとは「没入型」のコンテンツのことで、これまでの2Dによる映像体験とは異なり、ユーザー自身がまさにその場で体験しているかのような錯覚に陥るほどの効果をもたらします。
サムスンの体験型イマーシブ・コンテンツ。ジェットコースターのVR映像にあわせて、座席が動く
すでにインフォバーングループではクリエイティブフェローの木継則幸を筆頭にインフォバーン・デザイン・ラボ(IDL)でもイマーシブ・コンテンツの開発を先行させ、国内外から評価をいただいています。今後はさまざまな分野でイマーシブ・コンテンツが取り入れられていくことでしょう。
さて、今回の「VR/AR」トラックでは、コミュニケーションの新たな未来を模索し、KDDIがVIVEを用いたVR体験を披露しました。多くの海外ユーザーからも注目を集めていました。ユーザーは仮想現実のなかのブールサイドを歩きまわることができ、手にもったシャンパングラスをCGのアバターのそれと重ねて乾杯するなどの体験が可能です。
また、NHKが出展する8K:VRシアターは、24個のスピーカーを用いて、22.2チャンネル再生を行っています。加えて2つのプロジェクターから投影された映像を3Dメガネをかけて視聴しますが、そのクォリティはまさに圧巻。あたかも手を伸ばせば触れるかのようなリアリティに心奪われます。
ほかに、世界各国の映像制作会社がゲーム、非ゲームを含めたイマーシブ・コンテンツを披露していました。
ユニークなのは、BIPOLA IDによるRED DRAGON 6Kカメラを用いた360度映像です。同社が制作したリグ(カメラをつなぐパーツ)に搭載したRED DRAGONは見た目も圧巻ですが、その映像は美しく、あれだけ高い解像度を見せられると、やはり没入感は高まります。
VRトラックの一部展示より。惜しまれるのは、VRにより驚きの体験が得られるにも関わらず、
写真におさめるとユーザーがただ座っているだけの退屈な写真となることだ
ユニークなアプローチとしては、ジャパン・ハウス内のASOBI☓NTTブースが配布していた紙製のVRゴーグルによるYun*chiのライブ映像です。実際のライブもありましたが、手軽に非同期の360度ライブを楽しめるという点で、このような施策は今後も登場しそうです。
ジャパン・ハウス外観
ほかにARTそのものの世界に没入できるものや、自身が実在のアーティストの視点となり、街中でグラフィティを描く体験を追従できるといったイマーシブ・コンテンツが秀逸でした。
全体を通じてイマーシブ・コンテンツの捉え方も百花繚乱という印象で、まだ決定的な文法が編み出されているわけではありません。しかし、すでにその萌芽は散見され、いずれ企業コミュニケーションやマーケティング分野で効果的に活用されるのは時間の問題でしょう。
エキシビジョン以外では、VR/ARトラック2日目に開催された「VRを利用した新しい広告モデル」というセッションに参加しました。そこで、サムスンのVR担当VPのカルロス・ディカルロ氏が参加する鼎談を聴講しました。同氏はVR広告モデルの可能性について、次のように語っています。
「人々は長い時間の視聴をしなくなった。スナップチャットがいい例だ。VRは数分内ですごい驚きを与えてくれるでしょう」
「VRを利用した新しい広告モデル」セッションの風景。サムスン以外、日本ではほとんど知られていないが、
ユニークな試みを行うVR事業者らによる鼎談だった
また、VRコンテンツ制作会社VrseのCTOアーロン・コブリン氏は、「VR広告はエンターテインメントと広告をつなげる。そもそも(メディア体験が)One2Oneなのだ。ブランドストーリを語るのに適している」と期待を寄せます。
NASAが展示していた月面探査用のルナ・ローバーを乗り回すというイマーシブ・コンテンツでは、体験すると浮遊感がすごく、「VR酔い」に悩まされました。課題としては、そのような視覚から脳を騙す場合の身体感覚とのズレから生じる「VR酔い」の克服でしょう。これについては、すでにゲーム分野ではいくつかの解決方法が編み出されたようです。
説明してくれたNASA職員。彼が担当していたのは、スペース・ローンチ・システム(SLS)のシミュレーションVR映像だ
ゲーム酔いとは無縁の筆者が、体験後も長いことVR酔いしてしまったルナ・ローバー(月面車)のシミュレーション。固定のイスにHMDとコントローラーのみ。このコントローラーは本物とほぼ同じ機能なのだとか
また、会場内では多くのVR用ゴーグルや3D動画を撮影するための安価なカメラから映画にも使えるハイエンド用まで多くのデバイスが展示されていました。
VITRIMAは、GoPro1台で擬似的にVR映像を撮影するデバイス
数あるVRゴーグルのなかでも、一風変わっていたのは、木製のVRmaster社製品。オランダの会社だ
4K画質を謳う360度映像カメラVuze。まだ少ないVR撮影用カメラだが、
高画質なものが安価にリリースされることで市場が一気に活気づくだろう
最後に、インタラクティブ・トラックで講演を行った元WIREDの共同創業者ケビン・ケリー氏の言葉から本レポートを締めくくりましょう。ケリー氏は、VRを2つに分類しています。
「1つは、没入型〜あなたに新しい現実を挿入する〜、もう1つは、プレゼンスMR〜あなたの今の現実に新しいレイヤーをそえる〜。【MRはミクスト・リアリティ〜複合現実。グーグルグラスのようなデバイス等を用いて、現実に仮想空間を重ねること】」
優れたイマーシブ・コンテンツは、単なる2D的なものの焼き直しからは、産まれません。
私も数多くのイマーシブ・コンテンツを経験して、その「カギ」が見えてきました。しばらくはVRにさえなっていればという感じでしょうが、今後は淘汰が進むでしょう。
ケリー氏は次のように述べていますが、ここにヒントがあります。
「これは『経験のインターネット化(インターネット・オブ・エクスペリエンス)』である。われわれは、VRによって『情報のインターネット』」から『経験のインターネット』に移行する」