レポート|「IWDK」での登壇で教えてもらったこと

170515-1_headline_2Kaospilot – ビジネスとデザインを同時に学ぶことができる、未来のリーダーやアントレプレナーのための学校。デンマーク所在

こんにちはINFOBAHN DESIGN LABO. (IDL)、デザイン・ディレクター辻村です。

先日、4月22日デンマーク第二の都市オーフスで開催されたInternet Week Denmark 2017 (IWDK)にて”Stories About Design and Innovation Between Japan and Denmark”と題したイベントを開催、その後一週間をかけ現地デンマークのデザインファームを視察してきました。

本編は10日間のデンマーク滞在のなかで得ることができた気づきをレポートします。

今回実施したIWDKでのプレゼンテーションとワークショップ、その後のデザインファーム訪問の理由はこれまでの弊社実績を軸に日本におけるデザイン市場の現状を踏まえて、デンマークをはじめとした北欧企業とのパートナーシップの機会についてお話しするためでした。IWDKの様子は既にポストされております、弊社サービスデザイナー・エスベンの記事をご覧ください。

170515-1_text_1IDL レクチャー風景 “Stories About Design and Innovation Between Japan and Denmark”

今や、インターネット上で大抵の情報は入手できます。それでもわざわざ現地に行くのには理由があります。それは、デジタル空間での情報収集以上にリアルな感触、リアルな会話、リアルな現場を体感することを通して、より具体的な対話から得られる一次情報を貴重な価値として感じているためです。

国内外に関わらずイベント登壇をすればその後の懇親会でたくさんの方と話す機会に恵まれます。それが海外ともなると、質問される内容も国内のそれとはまったく異なります。この「違い」は新鮮でありながら、回答に窮してしまうこともあり、恐ろしさを感じることもあります。しかし、このライブ感こそ、現地でしか味わえないことであり、自分に向けられているすべての視線に敏感にならざるを得ない貴重な体験でした。

そんな多くのリアルのなかから今回の滞在で、自戒の念も含めて考えさせられたいくつかの言葉をご紹介します。

“デザインはフレームワークでなく、その背後にあるマインドセットを理解する必要がある”

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「Design Thinking」――昨今バズワード化されたこれらの言葉は各種メディアやビジネスの現場で多く飛び交っています。Design Thinking のフレームワークは、デザイナーと非デザイナーとの間に共通言語をつくるうえで非常に有用で、ビジネスの分野にも広く応用されています。

ではデザインをするうえで、フレームワークをどのように利用すると良いのでしょうか? 弊社も多くの案件でこのDesign Thinkingのフレームワークを活用しておりますが、実務のなかで、本当に重要なことは、その裏にある“エッセンス”をデザイナーが学びとっていくことではないでしょうか。

Design Thinkingを教えるスタンフォード大学d.schoolもフレームワークを使ううえでのマインドセット、“能力”の重要性について言及していることも非常に興味深いです。(参照:Let’s stop talking about THE design process

d.schoolの記事で語られている8つの“能力”のなかで私が主要だと思うものに以下の4つがあります。(他の4つも非常に示唆深いものですので、ぜひご一読ください。)

1.Learn from Others (People and Contexts)

他から学ぶ(人々やコンテクスト)

2.Rapidly Experiment

素早く試してみる

3.Build and Craft Intentionally

意図してつくる

4.Communicate Deliberately

しっかりとしたコミュニケーションをとる

特に2、3のポイントに関しては、今回訪問したデザインファームから吸収すべき点が多分にあると感じました。実践することが「シンプル」かつ、「具体的」であり、それ故に素早く、大きな脱線をせずにプロジェクトを進められています。話として理解できることではありますが、実践の現場を見て、対話することで納得感が増します。

Public Intelligenceではオフィス内に完備されたリビングラボを活かして、パブリックセクターを中心にヘルスケアサービス事業に特化したコンサルテーションを提供する会社です。リビングラボにクライアントを招き、プロトタイピングを実践し、取るべきアクションを決定できるストレートでスピーディーな進行は一見の価値があります。

この他にも、訪問したすべての企業が自らが提供できる価値、自らが実践していることに対してシンプルで具体的に取り組んでいました。シンプルでいることは時に不安にも感じてしまうこともあるかもしれませんが、シンプルとは決して単純を意味することではありません。Design Thinkingのプロセスを推進するうえで、他から学んだことを具体的に素早く試してみてフィードバックをもらい、次のアクションにつながるコミュニケーションを考える。このシンプルなプロセスに対してストレートに向かい合い、一つ一つの疑問点を明らかにしていく積み重ねを行ったうえでの明瞭な解がシンプルな形で表出しているのだと考えています。

プロジェクトをデザインする際、置かれている状況にフレームワークを適用しようとするあまり、必要なマインドセットをおざなりにしていないか? 自戒の念もこめて、振り返りのいい機会を得ました。

“自分たちが強みとして提供できる価値を研ぎ澄まし、なぜ自分たちが選ばれているかを理解する”

170515-1_text_3Designit –コペンハーゲンに本社を置くデザイン・イノベーションを専門とするコンサルティング会社、オーフス支社

Design Thinkingの背後にあるマインドセットを重視しながらデザインプロセスを進めると同時に考えるべきことがあります。そもそもなぜ自分たちに仕事の依頼が来ているのか。自分たちはクライアントから依頼される個性豊かなプロジェクトにどんな価値を付加することができているか。そうした点を見つめ直すことは企業やチームにとってのコアバリュー(提供価値)を再考する良い機会です。

Designitでは一般生活者を巻き込んだ参加型のデザイン手法が、スカンジナビアの国で生まれたことにプライドを持ち、西海岸で発展したDesign Thinkingとは一線を画していることで話が盛り上がりました。また、KL7は行動経済学の理論をもとにBehavioral Designを提供しているユニークな会社です。この他にもゲーム理論をベースにChange Managementのコンサルテーションを提供するWorkzや先のPublic Intelligence、日本国内では聞き馴染みの薄い提供価値を持った会社が散見されました。

組織の提供価値に対する会話のなかで出てきたキーワードとして

-sharpness

明快さ

-consistency

貫性

-presentation

発信

この3つが印象に残っています。Designitを中心に①自らのチームの提供価値を明確に定義している②チームトレー二ングを通して強固なものにしている③社内外にプレゼンテーションするプロセスをしっかりと持っている企業ばかりでした。自分たちが何者であるのか。なぜクライアントから選ばれているのか。常にアイデンティティーに対する問いと明快な解を持ち続けることこそが、ユニークなコアバリューを創り出し、組織のオリジナリティーを生み出す源になるのではないでしょうか。

「他から学ぶ」ための自己を理解するマインドセット

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日本からやってきた無名のIDLがどのように自分たちや自分たちの社会をプレゼンテーションし、何を持ち帰ることができるか。そのことを思考することが今回の訪問の最大の懸案でした。初めての場所で、異質なコミュニティーにダイブしていくことには大きな熱量を要しましたが、その反面、自らの弱みや強み、差異を体感することができたのは大きな収穫でした。

IDLでは各プロジェクトに取り組む際、インタビューや行動観察といった定性調査のなかで直に生活者と接してインサイトを引き出すことを我々のコアバリューとしています。すべての調査が、初めての場所で、初めての生活者との生の対話を通して行われます。「他から学ぶ」姿勢でリサーチをしつつも、リサーチャーとして何を目的にこの場にいるのか。主要観察ポイントはどこか。――事前の具体的な「自身の理解」に基づくことが最終的なリサーチの成果を大きく左右します。

今回のデンマーク訪問も外向的な目的を多く含むなか、結局は自身や帰属する組織のアイデンティティに関して再考する内向的な気づきを多分に得ることができました。外に向かうベクトルと内に向かうベクトルの均衡を取る手段として、異質な環境でコミュニケーションする経験を持つことは非常に有益だったのです。こんな副産物を得られることも、わざわざ現地に行く理由であり、期待の一つなのかもしれません。