中国、シンガポールなどアジア各国が集結! アジアにおけるサービスデザインの可能性とは?【IDLレポート| SERVICE DESIGN HONG KONG】
こんにちは。INFOBAHN DESIGN LAB.(IDL)、のサービスデザイナー山岸&エスベンです。
10月19日から2日間、香港で行われたService Design HONG KONG(以下、SDHK)に2人で参加してきました。今回は、その模様をレポートします。
SDHKは、アジアにおけるサービスデザインについて考えるグローバルカンファレンス。今年は、香港をはじめ、台湾、タイ、韓国、オーストラリアなどアジア各国から約200名が参加し、非常に熱気を帯びていました。参加者はデザイナーのほかに、企業のイノベーション領域の決済者が多くいたことが印象的でした。
西欧育ちのデザインシンキングを活用するには、国の文脈に合わせることが大切
今回IDLが参加した大きな理由の1つとして、日本以外のアジア諸国のサービスデザイン実践者との交流があります。どのように欧米中心に開発されたデザイン思考を適応して活用しているか、その現状を知りたかったのです。
交流を通して感じたのは、アジアには人間中心的なサービスの改善と開発をデザインするポテンシャルがすごくある反面、そのままでは活用しづらい側面があるということです。
上海工科大学教授のMay Lee氏
たとえば、上海工科大学で学生にイノベーションやビジネスリーダーについての教育をデザインシンキングの手法を使って教えているMay Lee教授の場合。西欧育ちのデザインシンキングをアジアでうまく活用するには、アジアの文化やその背景、組織の目的にフィットさせる必要がある」と日々学生と向き合うなかで、実感し実践しているそうです。
というのも、教育の一環としてIDEOのトム・ケリー氏を招き、優秀な学生たちにデザインシンキングの授業を行った際、授業を受けて、学生たちは感銘を受けるかと思いきや、「中国では全然使えない!」と反応したそうです。トム・ケリー氏が教えるデザインシンキングは、シリコンバレーや西欧のエコシステムに適応しているもので、彼らの文化背景とはあまりにも違いがあったのです。
また、カンファレンス会場で出会ったシンガポールからの参加者は、アジア全域で新商品に対する記述式のアンケート調査を行なった際、日本の回答者からの評価が想像外に低くなったことがあったと話していました。疑問に思い、直接インタビューしたところ、単に日本人は記述式のアンケートなどでは評価を控えがちにするだけで、実は他の国と変わらなかったと分析できたそうです。
以前、私が日本で実施したデプスインタビューでも、似たような経験がありました。アメリカ人デザイナーがインタビュー結果を日本人クライアントに対して発表していた時に、被験者の下の名前だけを使っていたのです。すると被験者の苗字しか気にしていなかった日本人オーディエンスが少し混乱してしまったのです。
非常に些細なポイントかもしれませんが、こういった文化特有の文脈を無視して、デザイン思考をあてはめると、有効であったはずのプロセスがうまくいかない可能性は十分あります。アジア各国でサービスデザインを実践する方々の話を聞いて、その重要性を再認識することができました。
SERVICE DESIGN HONG KONGのハイライト
SDHKのセッションハイライトも簡単にご紹介したいと思います。
今回のSDHKのテーマは「CHANGE」。組織としてイノベーションを進めていくには、抱えている問題を解決し、変化し続けないといけません。そのような環境のなかで、デザイナーだけでなく組織全体が変化の必然性を受け入れ、どのように取り組んでいくべきか、多くの示唆がありました。Day1のトークは全部で10セッションありましたが、特に印象的だったセッション2つをご紹介します。
Case1【上海工科大学】
イノベーションを妨げる勝手な思い込みは「紙袋の帽子」が教えてくれる
1つ目は、先程もご紹介した、上海工科大学教授のMay Lee氏のセッション。
イノベーションを推進するには、今までの当たり前や思い込みがどれだけ問題解決に影響するか理解する必要があり、それらを打破することで1つだけではなく複数の解決策の可能性が見えてきます。その「思い込み(Assumptions)」とは、一体どんなものかを気づかせてくれる授業中の面白いエピソードを教えてくれました。
- クラスの学生全員に頭に紙袋をかぶるように指示した。
- 「今、身につけているもので、不要なものを体から外してください」と告げた。
- すると頭にかぶった紙袋を外したのは、なんと1/5の学生だけだった。
なぜか。理由は、次のステップで頭にかぶった紙袋を使うと思ったから、だそう(次のステップがあるなんて言ってないのに)。「ソリューションは1つだけ」と当たり前に考えるエンジニア思考を持った学生たちは、勝手な思い込みで自分の視野を狭くしていたのです。
これは日常のちょっとしたエピソードですが、「Assumptions」を疑うことがいかに重要かを知るうえでの好例ではないでしょうか。先日、私たちが開催したワークショップで、参加者たちに同様の問いかけを行ったところ、同じような結果が得られました。体験を通じて理解する上でとっておきの方法なので、ぜひ人を集めて試してみてください。
Case2【Ocean Park】スタッフ向けアプリを導入して、従業員全員が顧客を楽しませる意識を作る
Ocean ParkのエクゼクティブディレクターTodd Hougland氏のトークでは、顧客中心もイノベーションの重要な要素であると再確認させられました。
Ocean Parkは、香港にある水族館と遊園地が一体となった国営の遊園地です。1999年に香港ディズニーランドの建設が決まったことを機に、「Ocean Parkにはどうしても変化が必要だった」と彼は言います。そこで注目したのが、従業員のマインドセットを変えた社内改善でした。
成功の要因となった施策は、ゲスト数や園内の流れを簡単に比較できる従業員たちのためのアプリ開発。園内のどこに課題があり、何をすれば良いか考えるチャンスをつくり出したのです。「バックステージ」のマネージャーたちだけが俯瞰データを持っているのではなく、従業員全員が現状を把握して顧客体験の改善に取り組めるようにしました。このアプリは、現場で顧客と向き合う「フロントステージ」の従業員たちへの「Empowerment」といえるでしょう。しかも、現在Ocean Parkはアプリを商品として発売し、他の遊園地でも活用しているそうです。
その他にも、顧客のクレーム対応に使える「Privilege cards(割引特典カード)」を現場スタッフがマネージャー判断なしで使えるようにしたり、Ocean Parkのプロモーション動画にスタッフを出演させたり、従業員全員がOcean Parkを作り上げる一員として顧客と向き合うためのさまざまな施策を行いました。その結果、従業員がサービスの一員となることで、パーク全体のレベルを上がり、収益を順調に増やしているそうです。
このようにスタッフが知る情報を均一化し、全員が同じ目線で考えるきっかけをつくることは、組織文化に大きな影響を与えます。組織としてこれを実行する決断をしたパワーは、イノベーションを支える要因のひとつですね。
イノベーティブであるには、顧客をどう捉えるか、顧客中心のサービスを生み出すために組織としてどう変わるか、を自らに問い続けることが重要です。そのためにデザインシンキングやクリティカルシンキングといったプロセスを活用し、「Assumptions」を打破していくことで良い課題と良い解決法を得られるチャンスがあるのだと思います。
次回は、スペインの首都のマドリードで開催されたサービスデザイングローバルカンファレンスについてご紹介します! お楽しみに!