カタチにするからわかること - 変化を見据えたアイデンティティのプロトタイピング
2023年5月27日に東京にて開催された、RESEARCH Conference 2023。コロナ禍を経て、100名以上が来場するリアル開催の場を活用し、IDLではブースを出展。様々なノベルティ制作を通してアイデンティティの具現化を試みました。「つくりながら考える」というIDLのコアバリューを体現しながら、自分たちの変化の軌跡と現在地を確かめるプロセスで得た気付きについて対話します。
今回対話したIDLメンバー
岩﨑 祐貴(Designer)遠藤 英之(Design Strategist)
手を動かすことで膨らむアイデア、刺激されるクリエイティビティ
遠藤:今回は、RESEARCH Conferenceでのブース出展に関する話をしていきたいと思います。本番は無事、盛況のうちに終了したのですが、今回は登壇だけでなく、ブース出展にもかなり力を入れました。会場に来てくれた方には好評で、購入したいなんてお声もいただいて、非常に嬉しかったですね。学園祭のような雰囲気でワイワイと楽しく制作しましたが、ただ楽しいだけでなく、デザインリサーチの強化と自己表現につながる良い機会だったと思います。
ということで今回は、制作をメインで担当したデザイナーの岩﨑 祐貴くんをお招きしました。よろしくお願いします。
岩﨑:よろしくお願いします。遠藤さんのおっしゃる通り、今回は本当に学園祭さながら、締切に追われながらも非常に楽しい制作でしたね。
遠藤:本当に頑張ってくれたよね。スポンサーになることは前々から決まっていたので、準備は進めていたんだけれども、いつの間にか制作物の点数がかなり増えてたよね?(笑)
岩﨑:そうですね(笑)。最初に僕がポンチ絵を描いたのがきっかけに、段々とアイデアが増えていきました。最終的に、ほぼすべてを完成させることができて自分でもビックリです。
岩崎によるポンチ絵
岩﨑:最近、外部イベントでもブースを目にする機会が多かったので、最終的にどんなアウトプットになるかは割と解像度高くイメージはできてました。とはいえ、自分たちの手でこの短期間でこの量を作れたのは、嬉しい驚きでしたね。
実際に作ったものをご紹介すると、まず大きいものではモニュメントとブースカバー。配布物としてはフレークシールと、クレデンシャルとサービスペーパーのハンドアウト。あとは、サービスペーパーの理解を促すようなフローチャートも作成しました。スタッフ用には、キャップと、名刺代わりのプレーリーカードも。全部合わせると10個くらいになりますね。
モニュメント・ブースカバー・クレデンシャル・サービスペーパー
フレークシール
キャップ
遠藤:改めて並べてみると結構な数だよね。最初からやると決まっていたというよりは、話し合う過程で「こういうの作ろうよ」「それを作るならこれもいるんじゃない?」って感じで、雪だるま式にアイデアが膨らんでいった気がする。
岩﨑:やっぱり可視化すること、手を動かすことで初めて見えてくるものってありますよね。まさしく「つくりながら考える」というところで、みんなの想像力やクリエイティビティが上手く膨らんでいって、しかもそれを実現できたのは良い成功体験になったと思います。
遠藤:本当にそうだよね。イベントに出展したり他の団体さんのブースを見たりといった経験は我々も多い方だと思うけれども、今回改めてこの場に集まった人に「自分たちを理解してもらう」という観点で、これでは足りないだろうとか、ここをもっと良くできるということを相当話し合ったよね。その過程で言葉もどんどんブラッシュアップされていったし。
その結果、制作数が増えたことで、過去には類を見ないほどデザイナーを総動員することになったよね。フリーのデザイナーとして、IDLの半分中、半分外で協力してくれている「&Co.」と呼んでいる仲間たちもフル稼働してくれて。岩﨑くんはビジュアルデザイナーとして自分が手を動かすタイプだから、今回は複数のデザイナーさんに同時に動いてもらう中で、いつもとは違う苦労もあったよね。
岩﨑:そうですね。「人を使う」ことへの課題意識は前々から自分でも持っていて。そもそも「使う」という表現も好きではないんですが……(笑)。今回はそうも言っていられない状況だったので、ある種の強制力を持って挑戦できたのは良い経験でした。立場が人をつくるというか。
遠藤:協力という意味でいうと、最後のアウトプットを担ってくれる、印刷や縫製といったサプライチェーンの進化にもかなり助けられたよね。
岩﨑:これには本当に驚きましたし、助かりました。正直、最初は間に合わないかと思って、半分諦めてたんですよ。ところが蓋を開けてみたら間に合って。以前こういったノベルティ制作をした頃と比べると、このクオリティがこの納期で届くというのが、結構驚きで。システム面も含めて、テクノロジーの進歩がサプライチェーンの進化にも繋がっていることを感じました。
遠藤:前回から引き続き、というかこれからずっと口酸っぱく言うことになりそうだけど、やっぱり我々が掲げる「つくりながら考える」という姿勢を実践しようと思うと、何か触れるものをつくることは本当に大事。その意味では、形にするためのサプライチェーンの流れを体験として持つこと、知見を貯めていくことは欠かせないよね。
岩﨑:そうですよね。頭で考えているものと触れるものって、やっぱり違うので。自分たちの手に持ってはじめて得られる「こういうことだったんだ」とか「この部分が見えてなかったんだ」という感覚がありますよね。人間の頭の中だけの想像力には限界があるけれども、モノに触ることによってそれを超えられるときもある。
“雑に”でもカタチにすることの意味を共有し合う
遠藤:前回辻村さんとのポッドキャストで、モノをつくることが大事だから最初は雑でもいいって話をしていて。この「雑」というのも、加減が難しいよね。雑にでも形にすることに意味を見出せる文化や前提条件を共有しないといけない。外の人を巻き込むなら尚更、失礼があってはならないから、ラフにお願いできる関係性が築けているかも重要。
岩﨑:あえて雑にすると、ディレクションが難しくなりますよね。つまり、言葉にし切れない部分が生まれてくるということだと思うので。僕自身は、自分で手を動かすときは「相手はやりたいこと全てを言い切れないだろう」という前提で、想像して作業するんですが、相手に同じことを求めるわけにはいかないと思っていて。
ただ、その間合いが上手くいくとすごく面白くなりますよね。ガチガチに決まりきった指示を出すよりも、相手のクリエイティビティに任せるような余白がある方が、想像を超えたアウトプットが出てくるというか。もちろん、相手を困らせるような曖昧なお願いではダメなんですけど。良い塩梅の遊びの持たせ方ができて、お互いに気持ちよくクリエイティビティを発揮できるというのは理想的ですよね。デザイナー冥利に尽きる、かなり楽しい瞬間だと思います。
遠藤:今回も、ある種の「雑さ」に意味を見出しながら、一旦アウトプットして形にしたことがとても重要なんだけれども、それ自体がゴールではなくて、もう既に見直しを始めているよね。アウトプットをプロトタイプと捉えて、これを元にどんどんチューニングしていく感じで。
岩﨑:そうですね。特に今は、IDLのブランドアイデンティティのチューニングに注力しています。今までは割と、上品で洗練された世界観を押し出していたんですが、数年経ってみて自分たちの認識と少しずつズレているような感覚が大きくなってきたんですよね。
新(左)旧(右)ブランドアイデンティティ
見直しにあたって、もちろん競合も俯瞰しつつ、内側に対しても、改めて自分たちはどんな方向性を打ち出したいのかというアンケートを投げかけました。
IDLのメンバー全員に複数のサンプルイメージの中から、最もIDLらしいと感じるものを3つ選び、そのビジュアルから想起する形容詞をキーワードとして書いてもらったんですが、それぞれの感じ方の違いが可視化されて興味深かったです。わかるんだけど微妙に違うみたいな。それをブランドパーソナリティのフレームで整理すると「刺激」に分類されるものが多いことがわかりました。
IDL内で行ったブランドサーベイ
遠藤:みんなの回答を見ると「刺激」が圧倒的に目立つね。
岩﨑:そうなんですよ。他のエージェンシーと並べてみても、これがIDLのユニークネスになる気がしています。このリブランディングのプロジェクトは結構前から進めていて、ちょうどリサーチカンファレンスのタイミングがよかったので、我々の考える「刺激」を反映したビジュアルアイデンティティを具現化する場として活用した感じです。
アイデンティティは変わっていく。だからこそプロトタイプに意味がある。
遠藤 : そうかそうか。ここまでの会話でも何度も「一旦形にしよう。それからチューニングしていこう」という我々の姿勢について語ってきたけれど、このリブランディングでもまさにそれが実践されていたってことだね。
岩﨑:そうですね。今ちょうど振り返りをしているところなんですが、結構悪くない気がしていて。RESEARCH Conferenceに合わせてクレデンシャルをアップデートする中で、IDLを象徴するキーワードとして「DESIGN DEPARTMENT」という言葉を強く押し出していくことになったので、ビジュアルアイデンティティの「刺激的」や「カラフル」というキーワードと上手くマッチしていると思います。
IDLクレデンシャルより抜粋
たくさんのスキルと知識を取り揃える「DESIGN DEPARTMENT」のメタファーとして、良い意味で大雑把というか、整いすぎてないというか。手垢が見えるような質感というのは、IDLのメンバーのパーソナリティに通じるものがある気がします。そのあたりの、ちょっとだけ歪んでるようなところを表現できたらいいですね。単純にイラレで作った直線的な図形じゃなくて、手触り感があるような。
遠藤:みんながバラバラに思い描いていた「刺激」のイメージがマッシュアップされて可視化されるのはすごく意味があるよね。一方で、今回やりながら感じたのは、表現をアジャストしていくのと並行して、我々自身もどんどん変化しているということ。クライアントワークを通して、未来社会のオルタナティブな可能性をデザインするということが我々のミッションでもあるから、常に一定ではないというか。だから改めて、ビジュアルアイデンティティやクレデンの見直しって、自分たちの現在地や変化の軌跡を確かめるという意味を持つと思ったんだけど、どう思う?
岩﨑:まさしくそうですね。社会に対してどんな価値を提供するのか、それに対して自分たちはどんなアプローチを選び、どんな存在であるかというところを見直す手段としてブランドアイデンティティを捉えるというのは、まさにIDLが大事にしている「つくりながら考える」という姿勢を象徴していると思います。社会の変化と共に変わっていく自分たちを、ある意味許容する遊びというか、器というか、そんなシステムがIDLらしいのかなと思ってます。
遠藤:そのあたりの考え方は、我々がお客さんと一緒にお仕事するときも共有できるといいよね。
岩﨑:確かに。DESIGN DEPARTMENTの説明でも、完全に外から関わるパターンと、中に入るパターン、少しだけ重なるパターンを作ったんですが、まさしくそんな感じですよね。相手を受け入れつつ、自分が入っていけるような曖昧さというか、重なりしろというか。その柔軟さがIDLのユニークネスかなと。
DESIGN DEPARTMENTとしての多様な関わり方
遠藤:そういう変化の許容みたいなところは我々も作っていきたいし、一緒にお仕事をするみなさんと共に形にしていきたい関係性でもあるよね。今後もRESEARCH Conferenceのような機会を活かしながら、変わっていく我々を皆さんにお見せしていくので、ぜひフィードバックや好き嫌いを教えてほしいです。
岩﨑:ぜひぜひ。ちなみに、今回作ったものの中で僕の一番のお気に入りはステッカーなんですけど、チームメンバーの有志がデザインしてくれたんですよね。slackで「アイデアあったらください」って投げてみたら、皆さん思いの外ノリノリで出してくださって(笑)。遠藤さんはかっこいいブラックレターのアイデアを出してくれて、遠藤さんの好きなヒップホップの文脈とは違うんですが、僕もメタル好きなのでこういうタイポグラフィの表現は気に入ってます。
遠藤:かっこいいよね(笑)。
岩﨑:ほかにも林くんはモコモコだったり、阿部くんは顔にしてちょっと遊んでみたりで、すごくバリエーションあって、面白くていいなと。
シールにまみれた岩﨑のゲストパス
岩﨑:RESEARCH Conferenceの当日はゲストパスにこのシールをベタベタ貼ったのが楽しくて。IDLらしい遊びというか、ちょっと変なところが表現できたかなと。案件では割と難しい言葉を使うし、すごく社会的なテーマを扱うことも多くて真面目なイメージが先行しがちかもしれないんですが、一方でこういったカルチャー色というか、幅の広さも持っている側面もあって。そういう良い意味でのギャップを、これからもっとビジュアルで表現できるといいなと思ってます。
遠藤:いいですね〜。出していきましょう。ということで、RESEARCH Conferenceを振り返りながら、我々がアイデンティティを考える上ですごく重要な時間を過ごしたことをお伝えできたかと思います。引き続きどんどん形にしていきますので、ぜひ皆さんのレスポンスもお待ちしております!
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