アウトプットではなくプロセスから価値を生み出す、デザインリサーチの新規性とは

2023年5月27日に東京の九段下にて開催された、RESEARCH Conference 2023。開催直前に、メディアとリサーチに関連するテーマで登壇したデザインストラテジスト・遠藤が、IDLのコアとなる「デザインリサーチ」という方法論について、部門長の辻村とダイアローグを行いました。

今回対話したIDLメンバー(トップ画像左から)
遠藤 英之(Design Strategist)辻村 和正(Design Director)

 

リサーチカンファレンスとIDLのデザインリサーチとの重なり

遠藤:今日はIDL部門長の辻村さんと「デザインリサーチ」をテーマに軽めのトークをしていきたいなと思ってます。

きっかけがありまして、もうまもなくですが、今年の5月27日土曜日にRESEARCH Conference 2023が開催されます。そこに我々IDLはスポンサーとして参加していまして、私もちょっと登壇させていただきます。今回オフラインとオンラインのハイブリッド開催になるので、九段下の会場にブースも出させてもらって、IDLのメンバーもはせ参じることになっています。

なので今日は、なぜ我々がRESEARCH Conferenceに出るのかなど、関連した話をできればなと思ってます。辻村さんよろしくお願いします。

辻村:お願いいたします。辻村です。


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「SPREAD」をテーマに開催された今年のRESEARCH Conference

遠藤:はい、おなじみの辻村さんですけれども、RESEARCH Conferenceを簡単に紹介すると、

 



RESEARCH Conferenceはリサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。行政、大企業、スタートアップなど立場の違いを超えて、活発な議論を重ね、共に学び合うリサーチコミュニティを育てることを目指します。

(RESEARCH Conference 2023 webサイトより)


 

というカンファレンスで、今年が2回目の開催です。IDLは昨年もスポンサーとして関わらせていただいて、そのときは辻村さんに登壇してお話をしてもらいました。

文字通りリサーチをテーマとしたカンファレンスなんですけれど、なぜIDLがこのカンファレンスに参加しているのかというところを話しながら、私が今年どんなことを話そうかというのにも触れていきたいと思っています。

まずそもそもなんですが、RESEARCH Conferenceなんで、当然リサーチに関する我々のケイパビリティやビジョンと重なるところがあるんですよね?

辻村: はい、そうですね。なぜここに2年続けて協賛しているのか、つまりこのコミュニティに対して期待してるのかっていうところなんですけど。まずは日本発っていうことと、リサーチにフォーカスした数少ないカンファレンスだと思ったためです。

我々IDLもデザイン部門として、デザインリサーチを企業に対して少なからず提供させてもらっているので、そこから得られたことやデザインリサーチを通して表現したいことを、RESEARCH Conferenceのコミュニティに還元できるといいなと思っているところが一番大きいですかね。

遠藤:そうですよね。IDLとしては、いわゆるサービスデザインとかUXデザイン含め、いろいろなものを対象に、プロセスもいろいろな状態、段階のものを提供しているかなと思うんですけど。我々の事業においても、リサーチは非常に重要なものですよね。

辻村:はい。デザインリサーチないしはデザインリサーチャーって、まだまだ市民権を得ていない言葉かなと思っているので、そこをどんどん発信していきたいところがあります。

あと、さっき遠藤さんからもあったように、リサーチっていう言葉自体が非常に多義的な面を持っているので、使う人と受けとる人によってそれぞれの解釈があると感じています。ただ、そのポジショントークをしたいわけではなく、多面性を持ったデザインリサーチというものに対して、それぞれの方法が独立しながらも、調和的な編成がされていくべきだなと思っています。

例えば、さっき読み上げてくれたRESEARCH Conferenceの紹介に、“より良いサービスづくりの土壌を育むために”って書かれてたと思うんですけれども、リサーチが用いられるのはサービスづくりのためだけではなく、様々な使途があると思います。

遠藤:確かに。

辻村:そういう意味では、このRESEARCH Conferenceで取り扱っている領域自体もまだまだ拡張可能だし、今年のテーマが「SPREAD」でもあるので、広げていくっていう意味で、我々が普段考えているデザインリサーチを発信していければなって考えています。


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カンファレンス当日、『デザイン・スルー・メディア~企業がメディアを持つ意味を「価値創造のベース」にリフレーミングする~』をテーマに登壇した遠藤

 

集めた情報から考え、まだここにないものを生み出す

遠藤:リサーチって辞書を引けば基本的な意味はあると思うんですけど、その言葉の多義性をいうと、例えばインフォバーンにおいても、いろいろな事業、いろいろな場面で使われるなと思っていて。

その中で我々IDLはデザインチームとして、先ほどから出ているデザインリサーチやUXリサーチであったり、手法として使ったりするけれども、インフォバーンのオウンドメディアとかコーポレートコミュニケーションをやっているチームの中でも、プロセスの初期段階でリサーチをしますよね。そのときのリサーチって、調べもののような意味合いで使ってる。

辻村:そうそう、うん。

遠藤:IDLもデスクトップリサーチや情報収集はするんだけれども、「リサーチ=調べもの」みたいなイメージを持った人って、我々の会社だけじゃなく世の中的に結構多い気がするんだけど、どう思います?

辻村:そう思います。多くの人はリサーチって聞いたときに、調べものや調べたものをまとめてアウトプットして納品するというイメージを持っている場合もあると思います。

でも、あえてデザインリサーチって言葉を使いますけど、デザインリサーチって情報を集めてくるっていうことではなくて、“集めた情報を元に、新しい物を生成する”っていうところまで含んでいるので。

自分で調べて得た概念を形にするところをすごく大事に扱っていて、それはこういうアプローチなんだよってことをいろいろなところで発信していきたいなと思ってます。

遠藤:つまりIDLがリサーチって言葉を使うときは、ある意味ニアリーイコールでデザインリサーチとして使ってるっていう。

辻村:もちろんお客さんありきの仕事なので、そこまで求められてはいない場合も正直あるにはあるけどね。でも、態度としてはそう思っています。そこのリサーチっていう概念の拡張可能性、ここまでできるんだよっていうところは、ある意味啓蒙的な側面も含めてお客さんといろいろ分かり合っていく必要はあるかな。

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遠藤:確かにね。リサーチして意見を集めたり、その情報をリストにして渡すことももちろん仕事としてあり得るけど、それをさらにどう取り扱っていくのかとか、それが何を意味するのかを出していくっていうのが一つ、特徴といえるんですかね?

辻村:だと思います。かつ、あえてもう一つ特徴としていうなら、先ほど“サービスを対象にデザインするために”ってお話がありましたけど、デザインリサーチの中には現在進行系のものを対象とするだけじゃなく、プラスアルファで“今ここにない物”であったり、もしくは時間軸は今なんだけれども“今存在しない別の代替可能物”を提示することもありますよね。そういう捉えどころがなかったり、今はない何かを提示するっていうときが使い所かなと。

また、そういうことに臨むための態度もデザインリサーチに含まれてるから、そこが他のリサーチとの差分としてあるかなと思っています。

遠藤: もちろんUXリサーチや改善的なものもあったりしますけど、IDLは比較的“まだないもの”を扱ってますよね。サービス・プロダクトであることもあるし、ビジョンとか考え方、人のあり方、コミュニケーションのあり方みたいなところを含めて、そういうお仕事が多い。

そういったときに、やっぱり調べものをするっていうだけではなくて、さらに形にしていくっていうことにデザインリサーチは適してるんですかね?

辻村:僕はそう思います。この間、リサーチカンファレンス主催者の木浦幹雄さんと話したときも、いわゆるincrementalという言葉でおっしゃっていましたけど。

遠藤:それは、どういう意味で?

辻村:いわゆるステップバイステップで段階的に改善して、今あるものをより良く。それは使いやすくとか、そういったユーザビリティエンジニアリングの視点で良くしていくっていうリサーチがあると思うんですけど。

最初に言ったようにそれを否定するのではなくて、例えばサービスを開発するプロダクトマネージャーだとしても、社内で新規サービスを立てるとか、今やっていることと違うトラックを作るときなど他の広がりが必ずあると思うので。

そのときは、あえて言葉を使い分けるとすると、デザインリサーチ的な思考とか方法が使えるっていえるのかなと思いますね。

 

とにかく手を動かす。想像力を使って“雑に”0から1を形にしてみる

遠藤:具体的な違いをもうちょっと聞きたいなと思うんですけど、今ないものを作っていくときに調べるってところは一緒じゃないですか。

辻村:うん。

遠藤:その後、形にしていくことが重要なんですかね? それがどういう意味を持つのか。

辻村:形にするのが重要。もちろんincrementalに形にすることもあると思うんですけど、そこで行われるのはあるものに付加するっていう形のつくり方。

デザインリサーチでは、例えば「厄介な問題」とか解き方のわからない新しい問題を取り扱うことがある。そういうとき、解決手段を探したいけどどう臨むのか、まずどこから手をつけたらいいのかっていう状況が結構起こるんですけれども。

そこにわくわくする人もいれば、あるものを改善することにわくわくする人もいるけど、前者のように“今ここにない物”に対してどう0から1をおくか、まずはどう考えようかっていうところで、全然ちっちゃくていいんだけど手を動かして物を作るっていうことができるかできないかっていうのがあると思う。そういう意味では、雑なマインドも必要。

遠藤:雑!(笑)

辻村:っていうのは、現実的に考えすぎると1をおくのが難しくなるから。

遠藤:なるほどね。

辻村:だから、プロトタイプを能力的に、技術的にできることと、マインドセット的に第一歩を踏み出せるっていうのはちょっと違ってて。incrementalなデザインと比較すると、マインドセット的に軽く踏み出せるっていうことがデザインリサーチャーに資質として求められるところなのかな。

遠藤:ある種の創造力が必要になってくる部分なんですかね。

辻村:そうかもしれないですね。クリエイティビティもそうだし、妄想とかイマジネーションの想像力も。

遠藤:両方が必要なんですね。

辻村:でも、もしかするとイマジネーションの方がより必要かもしれないですね。構想するという意味では。

遠藤:確かにね。UXリサーチもそうだし、リサーチっていう言葉がつくものってしっかりと情報を集めてくるから、それをいかに生かすかみたいな発想になりがちだけれど、“集めたものから、まずは1を想像して作る”っていうことなんですかね。

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辻村:そうだと思います。集める情報も、いわゆるサービスの改善に使うものより扱う裾野が広いので。STEEPとかPEST※とか社会状況をリサーチするものもあれば、ユーザーリサーチもあれば、テックトレンドリサーチとかもある。

例えば決済サービスの運営会社のUXリサーチャーが行うのは、基本的にそのUIやUXを向上するためのリサーチなので、非常に特化した視点が必要だけれども、デザインリサーチャーにはもう少し広い視点が必要。広く浅くって言っていいかわからないけど、その中でどのアプローチを選択してゴールに持っていくかっていうことを、試行錯誤しながらプロセスを作っているっていうのが特徴かもしれないですね。

※STEEPは社会、技術、経済、環境、政治の5つの要因を基に未来を予測する分析手法。PESTは政治、経済、社会、技術の4つの要因を基に自社や業界を取り囲むマクロ環境を分析する手法。

遠藤:アプローチというのは、リサーチのアプローチ?

辻村:例えば、富士山に登るときに登山道っていくつかあるけど、山梨県側から登るのか、どうするのか、みたいな。

集める情報によって、どこからどう攻めるのがいいのか、戦略性っていうのがあって、“集めた情報から、どうプロセスを作るか”っていうところのユニークさが、結果的にアウトプットのユニークさに繋がるかもしれないと思っています。

遠藤:なるほど。

辻村:デザインリサーチって、アウトプットへのコミットメントというよりも、プロセスづくりのコミットメントが僕は面白いところかなと思ってる。

遠藤:へぇー! へぇーって言っちゃいけないけど(笑)、なるほどね。

 

デザインリサーチャーが行うべきは、作りながら考え、プロトタイプをアップデートすること

辻村:方法論っていうと頭でっかちに聞こえちゃうんだけど、どう一歩踏み出すか、どこから手をつけるか、そこを考える。だからお客さんの特定の課題に対して、いろいろなやり方を提案できるし、どうアプローチするかも考えられる。

「まずユーザーに聞きますか」っていっても、そもそもユーザーも存在しないし。だとしたら、でも人は存在するから「じゃあ、どんな人に聞きますか?」っていうところから取りかかったり、あえて人じゃなくテックトレンドから入ったり、世の中ごとから考えてみたり。今はchatGPTを使ってはじめたりとか。

そのあたりが、おそらく特定のサービスの改善のためにリサーチしてるリサーチャーの業務範囲とはまた違うと思う。

遠藤:2つにもちろん壁はないだろうし、でも逆にいうとデザインリサーチで取り扱っている領域も広すぎるからね。何をやっていくのかっていう疑問も湧くよね。

辻村:そうなんです。今日も新入社員さんたちに話したんですが、「おっしゃることはわかりますが、結局何をしたらいいんでしょうか?」って聞かれてしまって(笑)。

遠藤:今年の新人さんは、本質を突く問いを次々と投げてかけてくるから、こっちも試されますよね。なんて答えたんですか?

辻村:そこの部分って相対的に決まってくるので。

サービスがあれば、そのサービスのドメインの中でやるっていう制限があるから、居心地がいいんですよ。そこだからこそできることもある。でもその制限がないから、合意形成していく中で、相対的に「この後どうしようか」っていうところが、結果的に立ち上がってくるみたいなことなのかな。

独りよがりで「これがいいんじゃないか」っていうのは当然よくないけど、私たちよがりになってもダメ。合意形成したうえで少なくとも複数人が納得感を持つことができても、実際それを作ってみて他者に見せたら、また別の切り口が現れてくることもあるんですよ。

そうやって“作りながら、考えながら、プロトタイプをアップデートしていく”のがやるべきところかな。その辺は全般的に言えると思うんですけどね。

遠藤:確かにそう思います。彼らの質問に現れているのは、多分デザインリサーチっていう言葉を聞いたときに、そこの過程まで含まれるって想像するってことがあんまりないっていうことなのかな。

辻村:そうそう。プロジェクトレポートだけドキュメントとして納品する件もある。

僕たちは製造業の企業を相手にUXリサーチとかUXデザインすることが多いので、インターフェースだけっていうより、物があって、その使い勝手のユーザビリティリサーチとか、もう一歩進んで、そこに求められている期待や価値を出すときもあるんですけど。お客さんが求められるアウトプットがドキュメンテーションの場合の納品物は、やっぱりドキュメンテーションになってしまうね。

遠藤:それが悪いわけでもないけどね。

辻村:うん、悪くはないけど、本当はもう一歩進んでドキュメンテーションしたことを物質化するっていうところまでいけると、非常にリサーチの幅は広がるし、やりたいことを表現できる。

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遠藤:作りながら考えるってこともデザインリサーチの一つの特徴っていえるのかな。そのとき、何を作ればいいんだろう?

辻村:やっぱり、さっき言ったように“プロセスにコミットメントする”っていうところが本質的だと思ってるんで、物としてアウトプットを作る必要は必ずしもないっていう前提はあるんだけど。

まだ今存在しなかったり、新しいことに向き合うときの向き合い方がわからないときに、“「こう臨むといいんじゃないか」って提示する考え方を具現化するもの”だと思う。

それって言葉だったり、物としてはダーティプロト(ラフなプロトタイプ)っていわれますけど、そのくらいの雑なレベルでも出せるといいかな。そこを繰り返していけると、議論やプロトタイプの精度が上がっていって、最終的にマーケットインできるようなレベルに近づいていくんじゃないかと思います。まずは何をしたらいいのかっていうところを考えるときに、説明を支援してくれるものを作れればいいかな。

遠藤:例えば、ペルソナのような人物像を作ったりもするけれども。

辻村:うん、それも僕はデザインツールだと思いますよ。

遠藤:そういう、リサーチされたものを何かしらの形にしていくことによって、意味が付与されたり、フィードバックを受けるためのプロトタイプになるってことですよね。

辻村:だから、生活者のところにリサーチに行くときも、手ぶらで質問票だけ持って行くんじゃなく、聞こうとしてることをより具体的に、身体的に理解してもらうために、よくある手法としてはカード化したりだとか、実際の物として持って行って、使ってもらって話を聞くとか。

その物自体も、サービス改善のために「今あるものがこう変わります、使い心地どうですか?」っていう検証的なものというより、アイデアを引き出すために作ることもあり、その時はおもちゃのようなものでも良い。

そこが、直接的にアウトプットになる物を検証的に扱うこととの違いかもしれないです。

 

プロセスがプロジェクトをドライブさせる、メディアコミュニケーションとの共通性

遠藤:そういう意味でいうと、例えば我々のデザインの文脈でこの二、三年より聞くようになったSFプロトタイピングなんかも、まさにSF小説のようなものをリサーチのプロセスの中で作るし、作りながら考える過程の中にそれが組み込まれていることでさらにリサーチのプロセスが進んでいくっていうのは、我々としては理想的な感じですよね。

辻村:かつ、メディアやコンテンツを取り扱っているところが弊社の出自なんで、SF小説を扱えるプロがいて、だからリサーチマテリアルとしてプロセスに介入させることができるっていうのは、とても理にかなっていると思う。あえていうと、SFプロトタイプっていうものも、少し流行り的な面もあって小説っていうメディアにしてるけど、必ずしもその形でなくてもよくて。

遠藤: そうだよね。

辻村:SF的な人工物でも良いと思うんだよね。だからそこは、メディア媒体自体は広く捉えればいいかなと思ってますけどね。

遠藤:ただ逆に、これは我々の経験則でもあるけれども、SFプロトタイピングみたいなことをしたときに、例えば作家さんに入ってもらってアウトプットを作る。でも実はそれが最終目的ではないんだけれども、コスト含めてアウトプットとしてのインパクトが強いから、それが面白いで終わっちゃったりしてしまうケースもあるんだよね。

今日話してきたようなデザインリサーチにおける、“作りながら考える”ための材料の一つなんですよっていうことが認識されると、もっと意味のあるものになりそうな気がする。

辻村:そう。だから捉え方としては、アウトプットとして残るものというより、リサーチ過程での生成物というか、消えゆく儚いものみたいな。作るものはそのくらいのイメージがいいかなと思います。

よくデザインリサーチの言説の中で、生成的・臨床的・即興的っていう言葉を使いますけど、一時的なものでいいので、考えを表すようなものをささっとプロトタイピングしてみるっていう捉え方がいいかな。そのくらい儚いもの。

だからデザインリサーチャーが使うものとしては、アウトプットじゃなくプロセスをドライブさせるツールとしての物が作れればいいので、デザインツールっていう解釈もできるし、作家性がそんなに必要ないケースもあるかもしれないね。

遠藤:一方で、作家さんまで巻き込むっていうのは戦略としてはありだけどね。

辻村:お客さんの中で上申しやすい形に持っていくとか、その辺りはビジネス戦略も含むから、そこはまた別のイシューだと思う。

遠藤:さっきの0から1を作るときの想像力の話でいくと、SFプロトタイピングって結構作家さんの想像力が非常に重要なポイントだから、つまり消え物としてのデザインツールづくりに参加してもらうっていう、ちょっと贅沢なんだけどね。

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辻村: だからお客さんによっては、作家さんに入ってもらうけれど、プロセスの中での意味をわかっているとあえて作品をぶち壊す場にもするんですよ。多分、それがデザインツールとしての正しい使い方かなと。

話をデザインリサーチに戻すと、プロセスの中での生成物っていうのはそのぐらい叩き壊されていくもの。

遠藤:なるほど。今のSNSにはInstagramのストーリーみたいな消えものが多いけど、その文化に慣れている若者たちはデザインリサーチと相性がいいかもね。

辻村:確かに。上の世代になればなるほど、デザインリサーチでできあがる物に対して、「これだけお金かかってんのに!」って(笑)。

遠藤:自分でもそういうことあるし。

辻村:プロセスの重要さっていうところに、価値が移行していくのかもしれないですね。

遠藤:そうなんですよ。IDLはデザインにおいてもデザインリサーチという発想をみんな持ってやってるので、結構プロセス重視のご提案をさせてもらったり仕事をさせてもらったりしてて。

実は5月末のリサーチカンファレンスで私がお話しする内容もですね、インフォバーンでも私はIDLに入る前は企業のオウンドメディアを作る仕事をたくさんさせてもらったので、そのメディアを作る過程自体がデザインリサーチの一つの発露なんではないかという話をしようと思っていて。

詳しい話はね、ぜひカンファレンスでお聞きいただきたいんですけど、今日話して思ったのはやっぱりメディアも消えものなんですよ。記事は残るんだけれども、感覚としては消えものだと思うんですよね。

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辻村:たしかに取材過程は消えるよね。

遠藤:それもそうだし、制作者側からすると作り終わったときに一旦ちょっと消えるみたいな側面もあったりする。

なぜかというと、それが最終成果物じゃなくて、そこから先があるから、そこまでのことを生かして次にどういくかみたいなところを考えているからなんだよね。

今日の話を聞いてて、調べものからスタートするところもそうだけれども、改めてデザインリサーチとメディアコミュニケーションの相性っていいなって実感しましたね。

辻村:素晴らしい実感。

遠藤:さっきから同僚でもある辻村さんの話に「へぇー」とか言っちゃって大丈夫なのかなっていうのはあるんですが、IDLにとってリサーチがどういうものなのかというのは、このデザインリサーチという言葉や態度に集約されてるってことなんでしょうかね。

辻村:僕はそう思っているので、多くの方にそういうことかって思ってもらえるように、布教活動的なことをね、地道に続けないとなとは思っているんで。このお話を聞いて、なんか面白そうなこと喋ってるなと思った人は、ぜひ連絡ください。掲載面に何かしらタッチポイントがあると思うので、お話できればなと思います。

遠藤: まさにね、5月末のRESEARCH Conferenceのお話もこの話の延長線上だし、実はその後にRESEARCH Conferenceの共催イベントをやろうと思ってます。その辺の告知もしていきたいと思ってますので、引き続きIDLの情報発信をSNSとかいろいろなものでフォローしていただければなと思います。

辻村:はい、ありがとうございました。

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ダイアローグの最後に触れられたRESEARCH Conferenceとの共催イベントは、2023年6月30日(金)に開催が迫っています。

 


RESEARCH Conference Pop-up in KYOTO 〜不確かなものに輪郭を与えるデザインリサーチ〜 
開催日時 6月30日(金)19:00 - 21:00 
会場 QUESTION(京都市中京区)/オンライン配信
詳細はこちら:https://research-conf.connpass.com/event/284902/

残席わずかですので、ご興味のある方はぜひお申し込みください。


 

執筆・撮影 : Design Strategist 山下佳澄

 

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